2024年9月3日火曜日
「矢切の耕地を未来につなげる会」の活動を一緒にやっている仲間の一人の樋口俊士さんが編集している「憲法を生かす会・松戸」発行のニュースレター「鳩のたより」用に、「アメリカ紀行」という題で2000字程度の原稿を依頼されました。7月21日に書き上げて、要望された写真2枚を付けて提出しましたら、2024年8月に発行された「鳩の便り」第77号に掲載されました。
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アメリカ紀行 本山直樹(千葉大学名誉教授 2024.7.21)
私が1978年から2008年まで30年間勤務した千葉大学を定年退職して16年が経過し、82才になりました。その前の約10年間はアメリカ南部のNCSU(North Carolina State University)のToxicology Programで農薬(殺虫剤)の作用機構に関する研究に従事していました。大学での研究以外に、キャンパスに隣接したRaleigh市の体育館(その後自分の道場を開設)で空手の指導もしていました。日本に帰国した1978年までの入門者数(6才~70才)は2,000人を超え、彼らとの交流はアメリカ人の考え方や習慣、文化を理解するのに大変役立ちました。当時はベトナム戦争が泥沼化していて、弟子の中には徴兵されてベトナムの戦地に派遣されたNCSUの学生もいました。夕食後も毎日大学に戻って実験をしていた私の研究室にコーヒーブレイク(休憩)に訪ねてきたアメリカ人の友人たちと、ベトナム戦争や太平洋戦争についてよく話し合ったのを思い出します。ベトナム戦争ではアメリカは間違った側を支援しているのではという見解や、太平洋戦争は真珠湾攻撃で始まって原爆投下で終わったのではなく、西欧列強の長年に亘る植民地支配に対抗した経済戦争だったのではという私の見解は、当時のアメリカの若者(戦前の日本と同じような愛国教育を受けていた)には新鮮だったようです。個人的には兄弟や家族のように仲良くなれる日米の(日米に限らず全世界の)若者が、戦争では憎しみ合い殺し合わなければならなくなるというのは、実に馬鹿げたことです。
日本に帰国後も千葉大学勤務時代は夏休みに2ケ月、定年退職後は秋か春に1ケ月、古巣のノースカロライナ州に滞在してNCSUの研究室で実験をしたり、昔からの空手の弟子たちと一緒に稽古をしたりするのがほとんど毎年の恒例になりました。コロナ禍の3年間は中断しましたが、今年は5月24日~6月24日の1ケ月間いつも利用する台所付きのモーテルに宿泊し、サウスカロライナ州Gaffneyで牧場をしている友人を訪ねたり、バージニア州Araratやノースカロライナ州Charlotteから友人が会いに来てくれたり、同じモーテルに滞在していたハンチントン病の女性とも知り合いになり電話番号を交換してテキストを送受信するようにもなりました。亡くなった人たちのお墓参りもしてきました。この年齢なのでもう大学で実験をすることはありませんでしたが、朝食前は近所のSymphony Lake、夕食前は車で10分ぐらいのところのLake Johnson の遊歩道をウォーキングし(合わせて1日10kmちょっと)、昼はモーテルの部屋で空手衣に着替えて基本の稽古と軽いウェイトトレーニングを1時間して、心身ともにリフレッシュしてきました。お陰でメタボ気味だった体重は20代の学生時代と同じになりました。自然が豊かで湖畔の遊歩道沿いの林からは様々な野鳥の合唱が聞こえ、野生のシカやウサギやリスの姿も見ました。湖ではカナダガンや マガモが子育てをしていました。
現地では、紙媒体の活字離れで地方新聞が無くなり、ニュースはテレビのCNN、FOX NEWSというニュース番組か、ABC、CBS、NBCという全国放送を視聴していました。今はロシアのウクライナ侵略戦争と、イスラエルのパレスチナ人虐殺戦争が進行中ですが、国連が機能せず誰も戦争を止められない情けない状態です。バイデン大統領はロシアのウクライナ侵略戦争ではウクライナを支援してロシアを非難していながら、パレスチナ人虐殺戦争では、言葉では民間人の被害を少なくするようにと言いながらイスラエルに軍事支援を続けるという矛盾した政策をとっています。私が滞在していた1ケ月間アメリカのテレビでは、日本のテレビでよく報道されるようなガザ地区の避難所や学校や病院やモスクが爆撃されて多くの民間人が殺され、住宅が破壊され尽くされて瓦礫になっている悲惨な映像はほとんど見たことがありませんでした。メディアを支配して政治家も世論も操作しているユダヤ系アメリカ人の影響力の強さを改めて感じさせられました。アメリカ社会は大統領選挙の年はいつもそうですが、親しい友人の間でも意見が2分されて理性的な思考が停止し、対話が不可能になってしまいます。それでも最近、各地で若者によるパレスチナ支持のデモが起こったというニュースが報道されました。多くの若者が新聞やテレビではなく、ネットからニュースや情報を直接入手するようになったことで、実態を知った彼らの理性と行動がいずれは戦争を止めることにつながることを期待しています。
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