3月19日(木)、21日(土)、22日(日)の本ブログに私が書いた「週刊新潮」3月26日花見増大号に掲載された農薬に関する記事第2回についてのコメントをチェックされた方が、私は記事第1回が載っている3月19日号を買いそこなって持っていないと判断して、一部郵送して譲ってくれました。ありがとうございました。
記事第1回には第2回の時と同様に、
「食」と「農」特集
ノンフィクション作家 奥野修司+本誌取材班
実は「農薬大国」ニッポン
第1回「妊婦」「子ども」は避けたい「食品」
「国産は安全」のまやかし
東京都の野菜・果物調査で衝撃データ
「カナダ」「台湾」では許されない残留基準値
「EU」禁止農薬を野放し
というおどろおどろしい見出しの記事(p.38~41)が4ページにわたって掲載されていました。読者の興味をそそって購入させるために、センセーショナルな見出しをつけるのは週刊誌の常套手段でしょうが、内容が事実と異なれば問題です。
先ず指摘しておきたいことは、「2008年の中国製の毒ギョーザ事件に使われたメタミドホスもこの農薬である。昆虫の中枢神経に作用して殺す化合物で、人間には毒性が低いとして売られたが、子供の脳にも影響を与えることが分かってEUでは多くが禁止された。ところが、日本では今もよく使われている。」という記述は、あたかも有機リン系殺虫剤のメタミドホスが日本でも使われているかのような印象を与えますが、それは全く事実に反するということです。メタミドホスは哺乳動物に対する毒性が非常に高く[ラットとマウスに対する(急性経口)半数致死薬量LD50は約30mg/kg・・Agrochemicals Handbook]とされていて、毒物・劇物の分類では毒物相当で、日本では一度も農薬登録されたこともなく、使用されたこともないというのが実態です。
当時私は千葉大学教授として現職でしたが、事件発生を受けて捜査に当たっていた千葉県警察は私の研究室に来て、「ギョーザから検出されたメタミドホスと中国で販売・使用されているメタミドホスが同一のものか異なるものか」どうしたら判断できるか協力してほしいと依頼されました。もう一つの依頼事項は、ギョーザの袋の外から処理したメタミドホスは袋を通過して内部のギョーザに到達できるかという質問でした。
メタミドホス農薬製剤には有効成分の他に微量の不純物が含まれるので、薬物指紋として不純物の種類と組成割合を比較すれば、製剤に使われた原体が同一か異なるかを判断する一つの情報になります。ところが当時メタミドホスは分析用標準品としての試薬は和光純薬から購入できましたが、日本国内には製剤も原体も存在しませんでした。当時中国はメタミドホスはギョーザが日本に輸入されてから日本国内で混入されたと主張していましたので、日本での分析をさせないためか、メタミドホス製剤の国外輸出を禁止しました。唯一南米のある国にだけは例外として輸出されていたメタミドホス製剤を輸入(分析目的として所管官庁の許可を得て)して、不純物組成を分析したところ、中国国内でロバの肉の饅頭(まんじゅう)に混入して中毒事件が起こった時の不純物組成と酷似しているということがわかりました。
上記の事実に反するあるいは誤解を招く記述に加えて、記事第1回の一番の問題は、Hazard(有害性)とRisk(危険性)の違いを区別せずに、Risk(危険性)はHazard(有害性)×Exposure(暴露)できまるという毒性学の基本を無視して、ネオニコチノイド剤とその代謝物が基準値よりもはるかに低い濃度検出されたこと自体が危険という主張を展開して読者の不安感を意図的に煽ろうとしていることです。
その他の問題点については、いずれ時間のある時にコメントしていきたいと思っています。