2020年3月19日木曜日

電車内の広告だったか、「週刊新潮」に農薬を悪者扱いにする記事が載っているようでしたので、近所のコンビニ(ローソン)に行って3月26日花見月増大号(460円)を一冊買ってきました。
「食」と「病」特集 
ノンフィクション作家奥野修司+本誌取材班
「実は農薬大国」ニッポン
第2回 中国超えで世界一に
異様に「きれいな野菜」
人への安全性は未確認
残留基準値がEUの2500倍!
水道水から「ネオニコ」
という見出しの記事がp.42~45(4ページ)に載っていました。第2回ということは、これより前に第1回の記事があったのかもしれませんし、最後に「つづく」とあるのはさらに第3回が予定されているのかもしれません。
以前は、読者の注目を集めて販売部数が増えたのか、よくこの手の農薬を悪者扱いにする記事がいろいろな週刊誌に掲載されていましたが、最近はあまり見ないなと感じていました。

今回の記事の主なポイントは:
〇FAO(国連食糧農業機関)のデータベース(2017年)を引用して1ヘクタールあたりの農薬使用量が、日本は中国、韓国に次いで多いことの指摘。
〇ある県(何故正々堂々とどこの県か具体名を明記しないのかのガイドラインによるとして、数種作物(キュウリ、トマト、ナス、イチゴ、ナシ、リンゴ)の農薬散布回数が非常に多く(25回~63回)定められていることを指摘。
〇ネオニコチノイド剤について、日本では残留基準値が海外に比べて高く設定されていることを指摘。
〇特にお茶については、ネオニコチノイド剤の残留基準値が他の作物(米と大豆)に比べて非常に高く設定されていることの指摘。
〇ネオニコチノイド剤は環境水(河川の水)から検出されているが、水道水については基準値が設定されていないので、人が水道水を通してネオニコチノイド剤を飲んでいる可能性があることの指摘。
〇研究者のコメントを引用して、医薬品は市販前に人間で安全性を試験されるが、農薬はラットなどの実験動物の試験だけなので、市販されている農薬で人体実験が行われているようなものという指摘。

簡単には虚偽の記述として訴えられないような慎重な表現を使っていますが、それぞれ何故そうなっているかの科学的説明が省略されていて、読者にミスリーディングな(実態とは異なる)印象を与えます。
特に、「クロチアニジンのホウレンソウにおける残留基準40ppmは、子供ならわずか一束(40g)で急性中毒のリスクがある量なのに、なぜ安全かというデータも公表されていない」という記述は、その根拠も示されていない悪質なデマです。クロチアニジンの急性経口毒性(LD50)は食品安全委員会農薬専門調査会の農薬評価書クロチアニジン https://www.fsc.go.jp/hyouka/hy/hy-hyouka-170127-clotianidin.pdf#search=%27%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%83%81%E3%82%A2%E3%83%8B%E3%82%B8%E3%83%B3+%E6%AF%92%E6%80%A7%27 に公表されていて、SDラットの場合は>5,000mg/kg、ICRマウスの場合は389mg/kgとなっています。40ppmというのはクロチアニジン40mg/kgホウレンソウですから、ホンレンソウ一束40g中には1.6mg含まれることになります。厚生労働省公表資料 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/syusseiji/tokubetsu/kekka03.html から5才6け月の子供の平均体重が18.5kgとすると、より厳しいICRマウスの急性経口毒性389mg/kgを当てはめると、クロチアニジン7.2g/18.5kgとなり、ホウレンソウ40gに含まれるクロチオアニジン1.6mgよりはるかに大きい値(約4,500倍)となり、どこから「急性中毒のリスクがある量」という考察ができるのか、全く根拠がありません。
また、研究者のコメントを引用した、「農薬の毒性試験は、農薬製造会社が行い、そのデータはほぼ非公表で私たちは見ることもできない。"そのデータって本当に大丈夫なの?"と思っても検証できない」という記述も極めてミズリーディングな印象を受けます。実際には、農薬の毒性試験は非常に信頼性の高いGLP(Good Laboratory Practice 優良試験所規範)適合の研究機関で実施されていて、試験結果の概要は農薬評価書として公表されています。
またかということで日本農薬工業会も農薬メーカーも無視するでしょうが、このような農薬を悪者にする記事が週刊誌に掲載されるということは、いくらビジネスのためとはいえ、国民に実態と異なる間違った印象を与えますので、「週刊新潮」誌の編集責任者の見識と良識を疑わせます。