2013年3月8日金曜日

東京農業大学総合研究所研究会農薬部会(私が会長)の第89回セミナーがあり、二人の演者が講演をされました。今回は農薬業界から演者を選び、一人はスペシフィック(特定の)テーマについて、もう一人はジェネラル(一般的な)テーマについて講演をしていただくという企画でした。

クミアイ化学工業(株)研究開発本部の貴田(きだ)健一氏は、植物病理学出身の若手研究者ですが、同社が最近上市した殺菌剤ピリベンカルブ(商品名ファンタジスタ)について、「新規殺菌剤ファンタジスタ顆粒水和剤の特性と農業分野における有効性」という演題で、この農薬が誕生するまでの経緯を紹介されました。リード化合物の合成を始めたのは1996年6月で、登録が認可になって販売が開始されたのは2012年10月ですから、約16年かかったことになります。一つの農薬が発明されるのにいかに長年月がかかるかを示していますが、灰色かび病や菌核病など広範囲の果樹や野菜類の病気の予防と治療に卓効を示すとのことですので、今後農業生産に大きく貢献することが期待されます。

日本曹達(そうだ)株式会社常任顧問の服部光雄氏は、薬学出身で、農薬工業会の技術委員会委員長や内閣府食品安全委員会の専門参考人も務めておられる重鎮(じゅうちん)ですが、「国内外の農薬登録制度と最近の動向について」という演題で、日本、アメリカ、EUの農薬登録制度の解説と問題点の指摘をされました。日本曹達株式会社が発明した農薬を日本、アメリカ、EUで実際に農薬登録した経験に基づいて、それぞれの比較をし、日本もアメリカも科学的にリスク評価をするのに対して、EUはハザードだけで切り捨てる制度を採用しているので、だんだん農家が使える農薬の数が減ってきて問題を生じつつあり、いずれ輸入農産物に頼らざるを得ない時がくるかもしれないとのことでした。
また、自分が所属している会社や農薬工業会に迷惑がかからないように配布資料には載せませんでしたが、最後に日本の問題として、農薬取締法の抜本的改正の必要性や、農薬の適正管理をする上で改善すべき事項の指摘をされました。