近畿支部大会は大阪市で開催されましたが、関西には土地勘のない私は最初新幹線で着いた新大阪駅前を地図を片手に会場の新梅田研修センターを探してウロウロしましたが、見つかりませんでした。おかしいなと思ってよく地図を見たら、新大阪駅ではなくJR大阪駅となっていましたので、駅が違うということに気がつきました。早目に出かけてきたので、電車で大阪駅まで移動しても十分間に合う時間に会場に着けました。
私自身は、以前農水省の農業資材審議会の委員を10年間、その中で農薬分科会長を8年間務めましたので、農薬の管理行政についてはある程度は理解しているつもりでしたが、3日間にわたる「緑の安全管理士」研修会での農水省と環境省の担当者の講演を聴いて、認識を新たにしたことが多々ありました。
大きく異なった点は、従来から安全性評価の基準として用いられてきた一生涯最大量を摂取し続けることを前提にしたADI(Acceptable Daily Intake 一日摂取許容量)に加えて、国際的な動きに合わせてARfD(Acute Reference Dose 急性参照用量)を短期(24時間程度)ばく露の安全性評価の基準として設定しつつあるということと、新たに農薬散布作業者の安全性確保のためにAOEL(Acceptable Operator Exposure Level 作業者曝露許容量)を設定することを準備中であるということです。
面白かったのは、基準値を設定したり、ばく露量を計算するのに使う日本人平均体重が時代とともに変化してきているので、厚労省が水の基準では昔のままの50kg、ADIでは最近の55.1kg、環境省の登録保留基準ではちょっと前の53.3kgが使われてきているということです。平均体重が変わる度に基準値が変わるというのは大変なので、アメリカでは平均体重として固定した60kgを用いているのと同様に、日本でも平均体重が調査の度に少々変わっても一々基準値を変える必要はないということのようです。
ちょっと気になったのは、「農薬をめぐる最近の動向について」の講演の中で紹介された「農薬中毒事故の被害者数の推移(1957~2012年度)の折れ線グラフ(1月21日のブログにスライド掲載)で、1957年(昭和32年)から1970年(昭和45年)ぐらいまでは年間被害者数が500人を超える年があったのに対し、1980年(昭和55年)代以降は年間30~50人程度に下がっていることです。同じ講演で紹介された「人に対する事故原因別農薬中毒事故の割合(2008~2012年)」の円グラフ(同じく21日のブログにスライド掲載)では、保管管理不良、泥酔等による誤飲誤植が最も多く36%で、次は農薬使用後の作業管理不良が13%で、散布農薬のドリフトによるものは4%でした。飛散した農薬にばく露して周辺住民が中毒したのは、最大の50人の4%で年間2人に過ぎないという計算になります。これらの数字は、多分各都道府県から報告された数字を集計したものと思われます。都道府県が中毒が農薬のドリフトによるということをどうやって確認したのかわかりませんが、クロルピクリンのような刺激臭の強い薬剤で土壌消毒が行われた時に、付近に漏出した刺激臭で住民の体調が悪くなったというのは因果関係が明白ですので、そういう訴えを集計したのかなと想像できます。
ところで、島根県出雲市では2008年にヘリコプターで松くい虫防除で殺虫剤散布をした時に当初数人の児童・生徒たちが目のかゆみ症状を訴え、その後の学校の調査では最終的に1000人を超えたと新聞報道されましたが、ばく露と目のかゆみ症状の因果関係は全く証明されませんでしたので、こういう事例は中毒事故の統計には含まれていないようです。その後の私たちの現地調査で、目のかゆみの訴えがあった日は通学路に繁茂していたイネ科雑草の花粉の大量飛散の時期と一致しましたので、目のかゆみの本当の原因は花粉症だったと推察されました。
大阪の会場では、参加者の中に千葉大学園芸学部の卒業生で環境緑地学科時代に私の講義を受講したという卒業生(1990年卒)が来ていて、挨拶にきてくれました。名刺をみたら大阪市で造園会社の社長をしているようでした。研修会が終わったらスマホか小型パソコンかの画面を見せてくれましたが、千葉大学時代の同級生とフェイスブックをやっているとのことで私が講演している写真が早速アップしてあって、「本山先生は相変わらずものすごく元気でした」とコメントしてありました。まるで現場中継のようで、最近の通信技術の進歩には驚きました。彼には、大阪駅までの帰り道を案内してもらいました。
よく知っている林業用薬剤会社の人も参加していたり、私が講演で使ったスライドをもらえるかと言ってきて私のUSBからパソコンにコピーをした人もいました。名刺交換をした参加者の中には、松くい虫防除で有人ヘリによる薬剤散布を日本で最初に始めたというヘリコプターによる防除業者の方もおられました。主催者の緑安協の話では、受講者の中で私に自分の県でも講演をしてもらえるだろうかと相談に来た人が何人かいたそうですので、これを機会にまた今まで知らなかった人たちとの交流の輪が広がりそうで嬉しいことです。