朝7時にホテル内のレストランで朝食後、再度昨日見れきれなかった場所を回って現地視察しました。
ここのリゾートにはポポラ
http://www.belnatio.com/nature/ という名称の自然観察教室が併設されていて、森のホールの他に水辺のホールという有名な建築家の安藤忠雄氏設計の施設が野外ビオトープの横に設置されています。この建物内にはビオトープ観察室や野鳥観察窓があって、子供たち(大人も)にとっては貴重な勉強のできる場所です。水のホールの外廊下にきれいな小鳥が落ちていました。ガラス窓に激突して死んだキビタキ
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AD%E3%83%93%E3%82%BF%E3%82%AD のようでした。こういう豊かな自然に囲まれた場所に建てる施設には、紫外線カットのフィルムや塗料を窓ガラスに処理することが効果があるかどうかわかりませんが、野鳥が窓ガラスを空と勘違いして激突死するのを防ぐ工夫がほしいものです。
帰りは予定より少し早めに越後湯沢駅まで送ってもらいましたので、ロープウェイに乗って山頂に行き、周辺全体の景色を眺めました。山頂にはまだ雪が残っていました。山頂に足湯の施設があったのは、何もここまできて足湯に浸からなくてもという気がしましたし、街中のマクドナルドハンバーガーレストランにあるのと同じような派手な色彩の子供の遊具があるのも場違いな感じがしましたが、多様な観光客を集めるための手段なのでしょう。
私にとっては雄大な周りの景色を眺めて、新鮮な空気を吸うだけで、十分満足でした。山頂にはりっぱなブナの大木も保存してありました。
当間高原リゾートのブユの発生源は、リゾートの上端にある見晴らしの池(当間山とその下に広がるブナ林が水源)から何か所かに設置してあるゴルフ場の調整池を結ぶ人工の水路(クリーク)のようでした。これらの水路は最下端の調整池に入り、そこから下に位置する周辺地域の水田の用水として利用されています。
その他に、井戸水を汲みあげて水源とした別系統の水路でゲンジボタルとヘイケボタルを発生させているビオトープもありました。
ゴルフ場の中を流れる水路は調整池と調整池の間の水路ですから自然の清流とは違いますが、水質がきれいになったせいかブユの発生源になっていて、水中の小石をひっくり返すと水生昆虫の幼虫と思われる幼虫がびっしり付着していました。もしかしたらブユではないかもしれませんので、今写真を専門家に送って同定してもらっています
(返事のメールが届き、やはりブユの幼虫だとのことでした)。水中にはトウキョウダルマガエルと模様の似たカエルや、サンショウウオと思われるコイル状の卵塊
http://xto.be/life/egg.htm も見られました。以前の私たちの助言に従って、水路の周囲には殺虫剤を練りこんだ1mの高さのネット(タフガード)
http://www.sumika-env-sci.jp/products/env/env-insecticide/net/117614.html が設置してありました。羽化してきたブユの成虫がここに留まった時に防除できないかという発想です。このネットには合成ピレスロイドのパーメスリンが練りこんであって、留まった害虫の手足が接触することで防除できる筈です。何種類かの昆虫が留まっていましたが、野外では中毒・致死した昆虫は風で飛ばされてしまいますので、ブユの成虫の防除に効果があったかどうかは判断できませんでした。
リゾートの管理者は自主的にモスキートマグネット
http://www.yanase-sanki.co.jp/mosquito/usage/ と呼ばれるアメリカの会社が製造した蚊の捕集装置を、ネットを設置した近くに設置してありました。プロパンガスボンベを接続して装置の中で燃焼させることで炭酸ガス(吸血性昆虫に対して誘因効果あり)を発生させ、さらにオクテノール(これも昆虫に誘因効果あり)を徐放性にしたスティックを設置して、蚊やブユを装置の中のネットに誘因捕獲する原理のようです。ネットの中には多数の蚊類、ハエ類の微小昆虫が捕獲されていましたが、ブユ類がどれだけ入っているかは詳しく調べてみないとわかりませんでした。
結局、調整池の水質がきれいになったので、その間の水路が自然の清流のようになってブユの発生源になってリゾートを訪れるヒトに刺咬被害をもたらせているのですから、(1)羽化してきた成虫を殺虫剤散布で密度を低下させるか、(2)タフガードのようなネットで水路を全部カバーして(降雪時期には撤去する)羽化した成虫が空間に出てくるのを防ぐか、(3)幼若ホルモン様物質(例えばピリプロキシフェン)やキチン合成阻害剤(例えばジフルベンズーロン)を水路に投入して幼虫を防除するか、あるいは(4)上流の調整池に泥水や家庭排水(洗剤を含む)のような汚水を投下して水質をわざと悪くして清流を好むブユが水路に発生しないようにするかしかないような気がします。あるいは、(5)コウモリやトンボを多数発生させてブユの成虫を捕食させることも一案ですが、行動時間が一致しないと効果は低い可能性があります。(6)ブユの成虫がどの波長の光に誘因されるか知られていれば、電撃殺虫器か粘着シートと組み合わせて密度を減少させる方法も考えられます。(7)大規模養鶏場などでヒメイエバエや吸血性のニワトリヌカカの防除に使われている大型で長期間持続型の液体蚊取りを水路から発生したブユの成虫が潜みそうな叢(くさむら)や藪(やぶ)の中に設置して、成虫密度を低げることも考えられます。
(1)の方法は、リゾート内のブユが発生して成虫が潜む可能性がある場所は広範囲にわたっているので作業が大変だということと、ブユの発生は春から秋にかけて長期間にわたるので刺咬被害を防ぐには頻繁な散布を行わなければならないという問題があります。(2)の方法は一番クリーンで環境にやさしいように見えますが、水路を利用する他の生物も水路に近づけなくするという問題があります。(3)の方法は、これらのIGR(Insect Growth Regukator)(昆虫成長制御剤)は、水路のブユ以外の生物にも影響する可能性があるという問題が考えられます。(4)の方法は、一番手っ取り早く、殺虫剤を使わないので環境監視委員会(リゾート建設時に地元住民との間で設置が合意され義務化された)の中の農薬使用に否定的な委員に批判されないかもしれませんが、清流をわざわざ汚染することが果たしてよいことかいう疑問が残ります。(5)の方法はコウモリは主に夜活動し、トンボは主に昼活動するのに対して、ブユの成虫はその時間帯には叢(くさむら)に潜んでいて、薄暗い時間帯に一番活動するようですので、どれくらい効果があるか不明です。(6)の方法は、ブユに走光性があるかどうか調べてみないと使えるかどうかわかりません。(7)の方法は、野外の広範囲な水路沿いに電源があるかどうかと、雨天の場合の対策が必要なことと、オープンな野外空間でブユ成虫に対して致死濃度が得られるかどうかという問題があります。
どの方法が最も防除効果が高く、安全で、経済的で、かつ環境監視委員会の了承が得られて実行可能かどうかは、現地でブユの密度(幼虫、成虫とも)をモニタリングしなから試験をしてみなければ判断できないような気がします。
もう一つの問題は、リゾートに近接した区域外にも水路があって、そこも発生源になってリゾート内での刺咬被害の原因になっている可能性がありますが、成虫が飛来・移動する距離がどれくらいか、ブユの行動習性を研究している人に確かめる必要があります。車で通過する道路沿いの林で作業をしている人たちは、皆頭からすっぽり被る防虫ネットを着用していましたので、ブユの被害は地域全体の一種の風土病のような問題なのかもしれません。