2015年11月30日月曜日

日本農薬学会第23回農薬レギュラトリーサイエンス研究会シンポジウム「農薬の安全と安心のための急性影響評価の導入」は、つくば市の文部科学省研究交流センター・国際会議場で、次のプログラムで開催されました。
1. 「残留農薬基準値超過時におけるADI・ARfDからみた安全性の考察」
  斎藤 勲(生活協同組合 東海コープ事業連合)
2. 「バイオロジカルモニタリングによる農薬の個人暴露評価」
  上島(かみじま)通浩(名古屋市立大学大学院医学研究科環境労働衛生学分野)
3. 「欧米における作業者暴露評価について」
  田渕美穂(住友化学(株)生物環境科学研究所)
4. 「JAグループの農薬指導-主に埼玉県を中心として」
  鈴木栄一(全農さいたま営農支援課)
5. 総合討論

現在、農薬管理行政上で大きな問題になっている2つのテーマ(急性参照用量の拙速な導入に伴う現場の不信感と混乱、ならびに作業者暴露評価の導入に伴う問題)について、講演と討論が行われました。
斎藤 勲博士は農薬レギュラトリーサイエンス研究会の会長ですが、長年愛知県で残留農薬の分析をやってこられた経験をお持ちで、食品残留農薬が残留基準値(MRL)を超えた場合は、食品衛生法第11条2項、3項によってただちに回収・廃棄の措置が取られているが、実際上はそのような食品を食べても健康リスクはないという指摘をし、本当は急性参照用量(ARfD)を超えた時にリスク評価をして回収・廃棄が必要かどうか判断するのが科学的と述べました。これについては鈴木氏も、埼玉県における直売所で販売している農産物のスクリーニング検査(法律に基づく収去検査と異なる、自主的な残留農薬検査)の仕組みについて紹介し、残留基準値を超えたら回収・廃棄をするように通知をしているが農家からの反発が強く、食べてもリスクがないものを何故回収・廃棄しなければならないか納得できないという軋轢(あつれき)があると述べていました。農家の反発は、当然だと思います。
上島教授は医学部の教授で医師ですが、分析技術の進歩で農薬の尿中排泄物の検査が簡単にできるようになり、有機リン剤代謝物から近い過去に暴露があったことは推察できるが、どれだけの暴露量か、健康影響のあるレベルの暴露なのかは情報が欠けていて判断はできないという限界を述べていました。私は農薬散布の現場で長年暴露量の調査をしてきましたので、今後場合によっては共同研究の実施に発展するかもしれません。
田渕氏は、ヨーロッパとアメリカにおける作業者暴露の評価方法について比較しながら情報を提供してくれました。
鈴木氏は上記のことに加えて、作業者暴露についても、暴露量を減らすために防御マスクと防御衣の着用を勧めてはいるが、夏の暑い時期に農薬散布をする時に自分も防御衣を着用したくないし、熱中症などかえって健康に危険な現実があるという問題を指摘していました。
非常に有意義な、私にとっては収穫の多いシンポジウムでした。海外の先進国の農薬制度に合わせるという名目で拙速に急性参照用量を導入して、現場に混乱をもたらし、今まで長年積み重ねてきた実績に基づく農薬管理行政に対する信頼を崩してしまった行政担当者の責任が大きいことは明らかでですが、これを機会に食品衛生法の改正に進んで、リスクのない食品を回収・廃棄させる非道徳的愚行を止めさせることにつながれば、不幸を転じて幸になすということになるのですが。農薬管理行政を所管している役所の現在の担当者にそれだけのリーダーシップをとれる人材がいるかどうか・・。

帰り道は、国際会議場付近の青色のイルミネーションが綺麗でした。




 





2015年11月29日日曜日

少し曇り空でしたが、昼休みに運動着に着替えて園芸学部構内を通って水元公園と江戸川堤防に行き、帰りは戸定歴史公園に寄ってみました。園芸学部創立百周年記念で建てた戸定ケ丘ホール前の3本の大きな銀杏の木は半分ぐらい黄葉していました。常磐線を跨ぐ陸橋の上から戸定ケ丘の斜面林を見ると、1本だけ紅葉している木がありました。

江戸川の河川敷では少年野球チームが試合をしていて、その向こうの川を越して遠くに筑波山が見えました。
水元公園の不動池にはアオサギが一羽じっと立っていました。
戸定歴史公園には日曜だということもあって、大勢の人がきていました。多くの人たちは電車や車で来るのに、私は水元公園にしても戸定邸にしても歩いてすぐ行けるのでラッキーです。茶室前の庭の紅葉・黄葉は見事でした。
2時間ちょっとのウォーキングでしたが、久しぶりにのんびりしました。

明日はつくばの文部科学省研究交流センター・国際会議場で農薬学会の第23回農薬レギュラトリーサイエンス研究会シンポジウムがありますので、私も聴講しに行く予定です。








 





2015年11月28日土曜日

今年5月15日に85才で亡くなられた名古屋大学名誉教授の伊藤嘉昭(よしあき)先生を偲ぶ会が名古屋大学豊田講堂につながったシンポジオンホールで開催されましたので、私も参加してきました。
伊藤先生と私は研究分野は全然違いますが、私が1978年にアメリカから帰国して名古屋大学の研究室の新年会を兼ねた研究集会で講演をし、「1969年に留学した時と1978年に帰国した時では社会の農薬に対する見方がすっかり変化して、農薬の研究者はまるで悪者のように見られていると感じる」と言ったのに対して、当時助教授だった伊藤先生は、「学問は虐げられている時こそ本物が育つのでめげずに頑張れ」と励まされたのが最初の直接的な出会いでした。それ以前にも先生が1963年に出版された「動物生態学入門」(古今書院)を買って読んだことはありました。その後、私が奉職した千葉大学園芸学部で学部祭があった時に、特別講演会の講師として来ていただき、ベトナム戦争での米軍の枯葉剤散布問題について講演をしていただいた時は、ついでに戸定ケ丘の斜面林を歩いてアブラムシのゴール(虫癭)のある葉を木に飛びついて採取し、斜面から転落しないかと心配したこともありました。伊藤先生が名大教授を63才で定年後は、私が農薬工業会から農薬の生態影響を何人かで研究チームを作って研究するからと言って研究費を200万円もらってきて、その中の50万円だったか70万円だったかを差し上げたら大変喜ばれて(農薬工業会の誰かには、本山は農薬工業会の研究費で反農薬の研究をするのかと嫌味を言われましたが)、私たちの研究データの解析(例えば種の多様度指数の計算の仕方など)を指導していただいたりしました。基本的に反農薬の色彩が強い人でも、生態学の基礎がしっかりしている人と一緒にやってこそ本当のところがわかるのだからと、反論して実行しました。今でも覚えていることは、千葉大学の私の研究室にチームが集まって検討会をしていた時に、私が農薬を水田にヘリコプターで空中散布をした真下に位置する水路の水生生物(魚類など)の密度に影響がないという調査結果を報告したら、「桐谷圭司(元農水省農業環境技術研究所の昆虫課長で、伊藤先生らと一緒に日本でいち早く総合防除[当時はIntegrated Pest Controlと言った]の推進を提唱した研究者)によると、農薬は生物濃縮して将来の世代に影響が出るということだから、今影響がなくても将来も影響がないとは言い切れないぞ」と言われたことです。伊藤先生ほどの学者でも、昔のDDTやBHCのような残留性農薬とその後進歩した環境に優しい現在の農薬との区別がついていないのだということを実感しました。それもあって、私たちは同じ水路で何年かにわたって調査を続け、毎年水生生物密度が回復していることを確認しました。

名古屋に行く時はいつもそうですが、八事(やごと)にある本山家のお墓参りをしてきます。昔は周りにもっと木がたくさんあったような気がしますが、墓地が足らないのか、ほんとんど木がなくなりお墓だらけになっています。荒川家は母の母の実家の明治維新の時の尾張藩士荒川忠右衛門の一族ですが、忠右衛門は子供は娘二人だけで家を継ぐ人がいなくなったので、私がいつも本山家と一緒にお墓参りしています。

偲ぶ会は豊田講堂につながったシンポジオンホールで行われ、ざっとみたところ伊藤先生の研究者仲間と名大時代の卒業生など約100人くらいが集っていました。伊藤先生を助教授として採用した斉藤哲夫名誉教授(91才)の挨拶に続いて、式次第に名を連ねたそうそうたるメンバーによる故人を偲ぶ挨拶がありました。
桑村哲生中京大学教授(魚類行動生態学)、斉藤隆北海道大学教授(動物生態学)、嶋田正和東京大学教授(行動生態学)、宮竹貴久岡山大学教授(進化生態学)、長谷川眞理子政策大学院大学教授(行動生態学/生物人類学)
続いて、伊藤先生の直弟子5人(いずれも学会で活躍しているそうそうたるメンバー)による座談会という企画で、先生の思い出や印象に残っている訓示について語っていました。
パーティの最後には、出席していたご長男の挨拶があり、やはり85才になられた奥様の紹介がありました。一世を風靡(ふうび)した反逆児的な存在だった伊藤先生を偲ぶ会に私も出席できてよかったと思いました。













2015年11月27日金曜日

東京農業大学総合研究所研究会農薬部会の事務局から、12月4日(金)に開催予定の第100回農薬部会セミナーの通知が届きました。

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                  東京農業大学総合研究所
              研究会農薬部会幹事長 薮田五郎

平成27年度農薬部会第100回セミナーのご案内

拝啓 時下益々ご清栄のこととお慶び申し上げます。
 平成27年度農薬部会第100回セミナーを下記の通り 開催致します。
関係部署の皆様お誘い合わせの上 多数ご参加くださいますようお願い申し上げます。
ご参加人数を11月25日までにご通知いただければ幸いです。

またセミナー終了後 講師を囲んで簡単な懇親会を予定しておりますので お忙しいとは存じますが 是非ご参加ください。

                          敬具

          記

日 時 : 平成27年12月 4日(金)14:00〜16:30
     14:00〜15:00 「新規殺虫剤イソクラストTM」(仮)
     播本佳明氏(ダウ・ケミカル日本� ダウ・アグロ            サイエンス事業部門)
     15:00〜16:30「我が国の農薬行政とは」 
     横田敏恭氏(アグリビジネス推進研究協会 理事長)

    懇親会:1Fプチラディッシュにて(会費1000円)

場 所 : 東京農業大学 食と農の博物館2Fセミナー室

幹事会 : 12:30〜13:30 食と農の博物館 2Fセミナー室
      11:30頃より 1Fプチラディッシュにて昼食をご用意しております。

連絡先:世田谷区桜丘1-1-1  東京農業大学総合研究所 研究会農薬部会
    E-mail : nouyaku@nodai.ac.jp
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私は部会長ですので、講演要旨(パワーポイントスライド)も送ってきました。第2演者の横田敏恭氏は元農水省消費安全局の農薬対策室長だった人ですので、いわば農水省内部の人間で、果たしてどういう話をされるか楽しみです。

2015年11月26日木曜日

先週21日(土)に自然保護協会主催で東京大学弥生講堂で開催されたシンポジウム「ネオニコチノイド系農薬の生態系影響」では、主催者はシンポジウム全体を動画撮影していました。私は、何人かの演者の興味深いと思ったスライドの写真を撮りましたが、会場で主催者から、写真は肖像権や著作権に抵触する恐れがあるので個人的利用に限定して下さいとの注意喚起がありました。
ところが、出演者が知らない間に主催者は動画全体をYutubeに投稿して一般に公開してしまったらしく、https://www.youtube.com/watch?v=OKJE8vSmm5o それに気が付いた出演者の一人が「内部資料としての撮影は認可した覚えがありますが一般への公開については許諾した記憶はありません。未発表データも含まれる発表ですので大至急削除を御願い致します」とのクレームが24日に出され、今は閲覧不可能になりました。私も出演者の一人ですが、動画撮影の諾否もそれを一般公開することの諾否も全く確認はされませんでした。
主催者のミスで出演者への確認手続き不備のまま不特定多数への一般公開に踏み切ってしまったのか、主催者内部で公開することに対する見解の不一致があったのかはわかりませんが、ちょっとお粗末の印象は拭えません。

東京電力と鹿島建設が主力メンバーとして関わる新潟県の当間(あてま)高原リゾートのブユによる刺咬被害問題については、今年私が現地視察後に防除対策の提案書を作成して提出しましたが、現地では環境監視委員会の臨時開催を要請して、防除実施の了解を得たとのことです。すでに一部で施工を実施し、環境アセスメント会社による水生生物調査も行われたようです。来週の火曜12月1日に責任者が関係者と一緒に私に会いに松戸に来られるとの連絡がありましたので、今までの経過の説明と今後の対策の相談をされるのではと想像しています。

来年1月の予定がどんどん入り始めましたので、タイの雑草学会の日程と重ならないかちょっと心配になってきました。タイの国立農業研究所の農薬部門のタワッチャイさんに雑草学会の開催日程を問い合わせるメールを打ちました。

昼休みは道場で1時間空手の稽古をして汗をビッショリかきました。夕方は水元公園の桜堤(つづみ)を2時間半ぐらいウォーキングしてきました。この頃は暗くなるのが早くなり、江戸川堤防に戻ってきた5時過ぎには真っ暗になってしまいました。
桜堤沿いで、クリスマスのイルミネーションが綺麗な家がありました。小さい子供がいるのかもしれません。
多分来月の今頃は千葉大学走友会の練習会がいつものように稲毛海浜公園である筈ですから、何とか一番後ろからでも皆についていけるように今から本気で減量と走り込みをしなければなりません。









2015年11月25日水曜日

北海道では40cmもの積雪があったとニュースが伝えていました。この辺りも今朝から冷たい雨が降っていましたので、運動に出るのは止めて、Crop Life Asiaに提出するInvoice(請求書)の作成に集中しました。航空券代は、羽田-ハノイ-ホーチミンシティ(旧サイゴン)-成田と、成田-バンコック-ジャカルタ-羽田の2回だけで、請求書も領収書もそろっているので簡単でした。航空券の半券を全部A4紙に貼り付けました。電車を利用した松戸-羽田空港、成田空港-松戸、松戸-成田空港、羽田空港-松戸の移動については、領収書を集めませんでしたので、領収書なしに各区間の電車料金だけをリストアップしました。US$1=JPY120の為替レートで、立て替えて支払った円をドルに換算し、郵便局からEMS便でシンガポールのDr. Vasant Patil宛に発送しました。
EMS便ですので2~3日で向こうに着いて、現地からの送金手続きに2週間ぐらいかかるそうですので、来月中頃には私の銀行口座にお金が振り込まれる筈です。

1月7日(木)と28日(木)に講演依頼の打診がありましたので、両方とも了承の返信を打ちました。来年1月に予定されているタイの雑草学会の年次大会での講演も打診されてOKをしてきましたが、早く日程が確定しないとこれからどんどん入ってくる日程と重なる可能性がありますので、ちょっと心配です。

2015年11月24日火曜日

昼休みに大学の道場に行って、男子更衣室のモップがけ掃除と入口踊り場の雑巾がけをしてから、1時間空手の稽古をしました。アメリカに1ケ月滞在して帰国してからはずいぶん体が軽くなったのですが、それから3週間経った今日はまた元に戻ったようで体が重く感じました。ベトナム、タイ、インドネシアと訪問中は毎日食べてばかりで全く運動しなかったのですから、自業自得です。
基本の突き、蹴り、受け、巻き藁叩き、サンドバッグ蹴り、腹筋運動、バーベルを持ち上げたり、ダンベルを振り回したり、重い素振り刀の素振りなど、一通りこなすと汗ビッショリで気分爽快になりました。

夕方は江戸川堤防を1時間ウォーキングしてきました。5時頃太陽が沈んで、西の地平線に茜(あかね)色の夕焼け空に富士山の陰影がくっきりと浮かび上がって見えました。
夏頃、園芸学部構内の柿の葉にイラガの幼虫がビッシリ寄生していましたが、今日通りがけに見たら、葉はすっかり落ちて、真っ赤に熟した柿の実が鈴なりになっていました。旧正門横の2本の銀杏の木は、まだ黄葉が始まっていなくて緑色の葉をつけていました。

先週土曜21日に開催された自然保護協会主催のシンポジウム「ネオニコチノイド系農薬の生態系影響」で、反農薬の人たちが「生態系影響は証明はされていなくても、予防原則(Precausionary measure)に基づいて規制をすべき」と主張していたことが気になりました。その一方で、「農家が害虫が発生していないのにネオニコチノイドを予防的に散布をしているのは無意味なので、害虫が発生してから散布をすべき」と主張していたのは、自己矛盾しているような気がします。
毎年田植え後に発生する病害虫はだいたいわかっているので、年によって発生が比較的少なくて被害が軽くて済む場合もありますが、年によっては予想外に発生が多くて大被害が出ることもあります。農家は正に予防原則に基づいて殺虫剤と殺菌剤を苗箱施用しているのですから。冬にインフルエンザが流行る前にワクチンを予防接種をするのと似ています。

明日は、大幅に期限を過ぎてしまった本の原稿のゲラ刷りの校正と、ベトナム・タイ・インドネシア訪問に掛かった経費のInvoice(請求書)を作成してCrop Life Asiaに送らなければなりません。


2015年11月23日月曜日

月曜ですが勤労感謝の日で祭日でした。雨が降っていましたので今日も家の中でのんびり過ごし、メールの返事を打ったり、今まで忙しくて遅れていたブログを更新したりしました。

私は今でも携帯電話は旧式のガラケーを使っていますが、そろそろスマートフォンに切り替えようかと思ってドコモの店に行ってみたら、大勢の人が順番待ちをしていて今からだと待ち時間は約5時間だと言われたので、あきらめて帰ってきました。別に急ぐことではありませんので、その内そんなに混んでない時に出直して、どんなオプションがあるか確かめてから考えようと思っています。

2015年11月22日日曜日

やっと忙しかった日程が終わって、昨夜は久し振りに我が家でぐっすり熟睡しました。妻が作ってくれるいつもの朝の食事とコーヒーのおいしかったこと・・。私はどこの国の食事もおいしいと思って食べられますが、やっぱり最後は長年食べ慣れた我が家の食事が一番です。

何かの準備に追われるということがなくなりましたので、留守中貯まっていた新聞を読んだりして家の中でのんびりし、昼ごろからは無性に体を動かしたくなったので江戸川の橋を渡って水元公園をC地区から入って、B地区、A地区と移動しながら3時間ウォーキング・ジョギングを楽しんできました。桜堤(つづみ)沿いにあるお寺の境内の銀杏の大木は黄葉真っ盛りで、木の周りの落ち葉が黄金色の絨毯のように地面を覆っていました。
小合溜(こあいだめ)には多くのカモとカモメが来ていました。小さな池にはいつの間にか一回り小さい黒いカイツブリが飛来してきていました。

2015年11月21日土曜日

ジャカルタから羽田空港には朝の7時に到着しました。すぐ松戸の自宅に帰って、シャワーを浴びてひげを剃って洋服を着替えて、自然保護協会主催のシンポジウム「ネオニコチノイド系農薬の生態系影響」が開催される東京大学弥生講堂に向かいました。講演予定者と主催者が一緒に昼食を食べながら、事前打ち合わせをすることになっていました。講演予定者の国立環境研究所の五箇公一博士とは以前から面識がありましたが、外国人のDr. Maarten Bijleveld van Lexmond(マーテン・ビジュレベルド)、Dr. Michael Norton(マイク・ノートン)、産業技術総合研究所の二橋 亮博士とは初対面でしたので、名刺交換をして挨拶しました。外国人とは、お互いにマーテン、マイク、ナオキ、とファーストネームで呼び合うことで了承しました。

自己紹介の時に、このシンポジウムの主催者と私以外の講演者は恐らく反農薬の立場でしょうが、私は農水省の農業資材審議会の農薬分科会長を10年近く務めてきたので農薬については異なる立場にありますと述べましたら、早速マイクから、自分が所属しているEASAC(European Academies Science Advisory Council)は反農薬でも農薬賛成でもなく、科学的な事実に基づいて助言をする中立の立場だとの訂正がありました。マイクからは、EASAC policy report 26 "Ecosystem services, agriculture and neonicotinoids"と題した61ページのりっぱな小冊子(2015年4月発行)が配布されました。同じ内容がhttp://www.interacademies.net/File.aspx?id=27071 でも見られるようですが、じっくり目を通してみようと思っています。

講演者やスライドの中で興味深いと思ったものを何枚か写真に撮りましたが、後で主催者から肖像権や著作権に抵触するからか、写真は個人の利用に限定して下さいとの注意がありましたので、ここでは差し障りがないものだけ載せます。

基調講演をしたマーテンの出だしのスライドは、「科学者はこの20~30年の間に世界中で昆虫密度の劇的な減少が見られることに気がついて、何が原因かどういう現象なのかについて調査研究を始めた」というイントロダクションから始めました。当初ネオニコチノイドが原因と疑われたCCD(Colony Collapse Disorder 蜂群崩壊症候群)によるミツバチのコロニー数の減少を念頭に置いての発言だと思いますが、その後の研究によって実はミツバチの飼養コロニー数の減少が見られたのはヨーロッパだけで、ネオニコチノイドの登場後にアメリカでもカナダでも日本でも中国でもミツバチの飼養コロニー数は減少していないだけでなく、アジアを中心にむしろ飼養コロニー数は増加傾向にあるということが明らかになっていますので、ヨーロッパが世界を代表するようなマーテンのイントロダクションそのものが刷り込まれた偏見に基づいていて、科学的ではありませんでした。

マイクの講演は、上記の文献に詳しく載っているので繰り返しませんが、Ecosystem(生態系)が農業だけでなく、人類全体にいかに多くの利益をもたらせているかを再認識すべきという主張は当然でした。ただ、ネオニコチノイドとミツバチの関係については公表されている多くの論文を検証していますが、影響があるとする論文と現実にミツバチは減少していないという事実とのギャップは残りました。

二橋博士の講演は、彼が少年だった頃から父親の影響で赤トンボの観察記録をつけていたことの紹介と、観察した赤トンボ数が20頭以上か20頭以下かのように記録の付け方がアバウトだったことによる精度の問題をきちんと指摘した上で、全体としては減少しているとの考察と、減少が見られた時期はネオニコチノイドが登場した時期と概(おおむ)ね重なるとしながらもネオニコチノイドが原因とは断定しなかったことは、彼の科学者としての良心と、風潮に流されないしっかりした資質を表していました。

五箇博士は、私も何回か見せてもらったことのある国立環境研究所の敷地内にあるコンクリート製の模擬水田(メソコスム)を使ったネオニコチノイドとフィプロニルの試験でトンボその他の生物に影響があるという結果を紹介しつつも、実際の野外ではこれらの殺虫剤がトンボの密度減少の原因になっている可能性はあるが証明はしきれていないという印象の考察だったと思います。日本では、農薬の環境への影響を判断する登録保留基準は環境省の所管で、鳥類やミチバチや蚕や天敵生物への影響試験のデータも要求されていますが、主として水系生態系への影響評価として魚類、甲殻類、藻類への影響試験の結果からPEC(予測される環境中濃度)とAEC(急性影響濃度)の比較が行われています。甲殻類の代表として試験に使いやすい外国産のオオミジンコを使っていますが、オオミジンコには影響がなくても他の甲殻類には大きな影響がある場合も当然あり、五箇博士はそこの矛盾を実例で示していました。しかし、甲殻類に限らず、環境中に無数に存在する生物種全てを対象に試験をすることは不可能ですので、環境省所管の研究所に勤務しながら現在の方式に代わる代替案を出せないところがつらいところかなと想像しました。

私は与えられた20分という短い時間の中で、前半は農薬が食料生産に果たしている重要な役割の説明をし、後半は実際の野外環境で私たちが何年にもわたって実施してきた農薬の生態影響の調査結果の一部を紹介しました。連続した野外の環境下では生態系の回復力は強く、農薬の種類によっては特定の生物種に一時的な影響はあっても、それは回復可能な変化であり、農薬のもたらす利益を考えれば受け入れ可能だということ。さらに、ネオニコチノイドは殺虫剤の開発の歴史の中で最新の技術であり、代替案なしにその規制を主張することは無責任だということ。水田は農家にとっては米を生産して家族を支える収入を得る食料生産工場であって、トンボやメダカやホタルを飼育する場ではないので、生物多様性や生態系を保全するには、生息環境を改善・保全することが必要、という意見を述べました。

私の意見はこのシンポジウムの主催者の期待からは外れていたかもしれませんが、少なくとも異なる意見もあるというメッセージだけは伝えられた筈です。
当然、会場からは反発があり、無農薬米を生産している農家が立ちあがって、自分の商品の宣伝をしていましたが、自然保護を自分のビジネスに利用しようとしている人たちが、科学的な自然保護活動をむしろ妨げているのではないかという気がしてきました。
もう一つ興味深かった会場からの質問・意見は、日本ではある特定の作物のネオニコチノイドの残留基準値は外国に比べて異常に高く設定されているのは何故かという、タイやインドネシアの人たちが残留基準値について理解していなかったのと同様の質問でした。反農薬活動をしている人たちは、特定の作物の残留基準値だけを取り上げて危険という主張をしているようですが、残留基準値というのは、日本人の食生活(食品係数)を考慮して、全ての食品から体内に取り込まれるその農薬のトータルな摂取量がADI(一日摂取許容量)の80%以下になるように設定されているので、一つの作物の残基準値だけを取り上げて高いとか低いとかの心配をする必要はないという説明をしておきました。

懇親会には1時間ぐらい顔を出しましたが、意見の異なる私がいれば会話がし難いかもしれないという配慮と、昨夜は夜行の飛行機でほとんど睡眠がとれていませんでしたので、途中で退席しました。

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