森林総研時代に取り組んだスギを加害するスギノアカトラカミキリを雄が放出するフェロモンで雌を誘殺したところ、ほとんどが既交尾だったので防除には役に立たないことがわかったという話は、フェロモンによる害虫防除の難しさを示唆しました。
ヤナギやポプラを加害するヒメボクトウというチョウ目(鱗翅目)害虫のフェロモンについても研究していた時に、同じ害虫による被害がナシやリンゴのような果樹でも問題になったが、果樹には果樹研究所があるので森林総研では一切手が出せなかったという話は、典型的な縦割り行政の弊害の事例として面白いなと思いました。その点、大学に来てからは森林と果樹に共通の害虫については自由に研究できたのはよかったとのことでした。
大学での最終講義らしく、自分の研究業績の紹介だけでなく、フェロモンに関する基礎的な説明があったのは多分野の参加者にとってはよい勉強になりました。
最後にフェロモンによる害虫密度低減効果を実証した事例として徳島県のナシ園で実施した試験例の結果を紹介しました。
フェロモンによる害虫防除(管理)は、効果発現までに時間がかかることやコストが高いということや、日本の消費者は高品質の生産物を要求するという問題がありますので、普及するには相当な努力が必要だなという気がしました。
私は以前、フェロモンのディスペンサー(プラスチックのようなものにフェロモンを封入して枝に巻きつける)の環境汚染(ディスペンサーがいつまでも分解しないで環境中に残る)問題に関する農水省の研究プロジェクト(補助金)の評価委員をしたことがありますが、生分解性の材質のディスペンサーの試験が行われていました。確か、生分解性と有効成分の長期徐放性のバランスを適度に調節する試行錯誤が行われていたような記憶があります。