東京農業大学総合研究所研究会の中の生物的防除部会の平成30年度第3回講演会が世田谷キャンパス1号館の433教室でありましたので、私も聴講してきました。今回は実用化されている3つの技術に関する話題でした。
大学構内の横の道路沿いには農大の造園学科の学生が植栽している花壇があり、今はパンジーその他の花の色が鮮やかでした。植物というのはいったいどうやってこんな鮮やかな色を作れるのだろうと不思議な感じがします。当然植物生理学分野の研究者が色素生成過程や関連する遺伝子などをとっくに解明しているのでしょうが。
演題1は、株式会社アグリクリニック研究所の村井 保氏の「IPMにおける炭酸ガス施用技術の普及状況と今後の展望」でした。村井氏は宇都宮大学の教授を退職後、起業した炭酸ガスを用いた害虫防除施設の会社の社長をしていておられるとのことでした。炭酸ガスは昔から貯蔵害虫防除にCA(Controlled Atmosphere)として使われてきましたが、施設栽培イチゴの重要害虫であるハダニ類その他を、苗の段階で25℃で炭酸ガス60%に24時間処理することで完全に防除できる技術を開発したとのことでした。
演題2は、全国農業組合連合会肥料農薬部農薬課の西川洋史氏の「バンカーシート普及の現状と今後の展望」でした。
ハダニは年間発生回数が多く、殺ダニ剤抵抗性が発達し易い難防除害虫の一つですので、特に施設栽培野菜などでは天敵のカブリダニ類が活躍できる分野です。昆虫の増殖能力を示す例としてよくハエ算が引用されてきましたが、ダニ算によると施設に1頭のハダニの雌成虫が侵入してそのまま増殖すると仮定すると、152日後には日本全体を1m覆う高さに達し、さらにその21日後には世界の大陸全体を1m覆う高さに達するという計算を紹介し、いかにハダニ防除が重要かの根拠にしていました。
従来はカブリダニはパックとボトルという2種類の製剤として販売されてきましたが、それぞれのメリットとデメリットを示した後で、全農が販売しているバンカーシートの有利な点を説明しました。簡単に言えば、餌(花粉)も一緒に供給されているので、長期間にわたって徐放できることで、ハダニがいない時も天敵を維持できるし、化学的防除とも併用できるということのようでした。
ミヤコカブリダニを放出させる「ミヤコバンカー」とスワルスキーカブリダニを放出させる「スワルバンカー」という2製剤があるようですが、2022年度の売り上げ目標は12億5千万円とのことでした。
ちょっと面白いなと思ったのは、最初のイントロダクションで「全農の仕事は農薬や肥料のような資材の販売ではない」と紹介したことでした。
演題3は、アグロカネショウ株式会社技術普及部普及課の石本ゆに氏の「土壌病害診断事業の実践事例と課題-IPMへの貢献-」でした。アグロカネショウは土壌病害対策資材として、バスアミド、ネマキック、D-Dという3剤を販売していますが、いずれも化学農薬です。生物的防除部会ですので、的確な土壌病害防除には土壌診断が重要ということで、先ずアグロカネショウが提供(ビジネスとして実施)している土壌診断の内容(物理化学的分析に加えて、病原微生物についてはメタゲノム法と呼ばれるリアルタイムPCR等も実施)について詳しく説明し、同社が販売している化学農薬の適切な使い方について説明しました。ただ、診断費用1検体5,000円というのは、会社にとっては利益にならないし、農家にとってはかなりの負担になるというのが問題かなという気がしました。
今日の講師は3人とも、ビジネスの普及活動経験が豊富なせいか「立て板に水」のように日本語が流ちょうでした。他社の競合製品と比較するところは3演題とも共通で、正にビジネスの普及活動という印象でしたが、私にとっては実用技術がどうなっているかいい勉強になりました。
帰りは、世田谷の夜空の雲の間から大きな月が見えました。