2011年12月18日日曜日

12月15日に振り込まれた方(12回目)の支援金が届きました。これで支援金の現在高は52,000円、延べ436人からの合計額は4,152,928円になりました。皆様それぞれの厳しい生活がおありの中で、市橋君に適正な裁判を受けさせるために何回も支援金を振り込んで下さり、ありがとうございます。市橋君は手記の中で「感謝」ということに言及していましたが、次回面会に行く時に、弁護団が市橋君のために最善を尽くしてくれているのはこういう多くの皆様の温かい思いやりのお蔭だということを忘れないようにと伝えてきます。

思ったより準備に少し時間がかかって遅くなりましたが、朝日新聞「天声人語」宛に意見書を今日発送しました。市橋君の事件とは無関係ですが、私が普段どういうことに興味を持っているか知っていただくために、以下にコピーを貼ります。どういう返事がくるか楽しみです。私の主張を裏付ける科学的データや写真などは、長くなりますのでここでは省略します。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
我が家では過去60年以上にわたって朝日新聞を購読している購読者です。先週126日(火)の「天声人語」に書かれている内容について、明らかに筆者の古い認識と誤解にもとづいていると思われる記述がありましたので、最近の科学的情報を提供して注意を喚起しておきたいと思います。この旨を当該筆者にお伝えいただければ幸いです。
なお、私は千葉大学園芸学部に約30年間勤務して、20083月に定年退職後は東京農業大学総合研究所の客員教授をしております。専門は殺虫剤の薬理学と農薬の環境科学です。また、農林水産省の農業資材審議会委員を200812月まで10年間務め、そのうちの8年間は農薬分科会の会長の任にありました。

私も近年の農村の耕作放棄水田のような荒廃風景を非常に残念に思い、スズメやメダカのような昔はどこにでも見られた身近な生物に郷愁を覚える点では筆者と全く同じ気持ちです。誤解にもとづいていると思われるところは以下の文の農薬で絶滅危惧の赤ランプの部分です。
スズメと同じく童謡に歌われ、同じく「学校」で学ぶメダカを思う。どこの水辺にもいたのに、開発や農薬で絶滅危惧の赤ランプがともる。♪みんなでお遊戯しているよ-の眺めは、悲しいかな遠くになった

1950年代や1960年代の農薬の中には、確かにパラチオンのように人畜に対する急性毒性が非常に高く自殺他殺を含めて多くの人命が犠牲になった有機りん殺虫剤や、DDTのように環境中に長期間残留した有機塩素殺虫剤や、PCPのように魚介類に対する毒性が非常に高かった除草剤もありましたが、これらを含めて人畜や環境に悪影響を与える危険性が高い農薬は1971年の農薬取締法の大改正で禁止になりました。
その後発明・開発され農薬登録された農薬は、これらの欠点を克服して安全性が格段に進歩したものです。農薬は、農水省で農薬登録されなければ輸入・製造・販売・使用はできません。登録には、人の健康や環境に対する安全性を確認する膨大な試験データが要求され、農林水産省に加えて、内閣府の食品安全委員会、厚生労働省、環境省、消費者庁が関与しています。厳しい審査を受けて登録認可された農薬は、遵守義務のある使用基準に従って使う限り健康や環境に対する安全性が確保されます。

私は千葉大学園芸学部に在職中は、生態制御化学研究室専攻の学生諸君と一緒に、野外で散布された農薬の挙動と運命や生態影響についていろいろな現場で何年間にもわたって調査をしてきました。その中の23の調査結果の概要をご参考までに添付致します。
1つ目は、茨城県北浦周辺の水田の水路における農薬濃度と水生生物に対する毒性を毎週調査したものですが、悪影響を及ぼすような濃度は水路に流出していないことと、農薬を散布された水田の水が直接流入する水路にメダカの群れが多数泳いでいるのを実際に確認できました。
2つ目は、千葉県山田町(現香取市山田区)の広大な水田面積に有人ヘリコプターで農薬が散布された時に、散布直下に位置する水路中の農薬濃度と水生生物に対する影響を調査したものですが、農薬濃度は生物に影響を及ぼす閾値(いきち)以下であることと、実際に水生生物密度に有意な変化を与えていないことが確認できました。調査対象地域には絶滅危惧種のホトケドジョウが生息している小水路とメダカが生息している小水路もありましたが、散布前後で有意な密度変化はありませんでした。調査時期によっては一部の調査地点で密度減少が観察された場合もありましたが、これは農薬の影響ではなく、調査のために小水路の底質をさらってしまったり(ホトケドジョウ)、農家が水はけをよくするために水草を引っこ抜いてしまったために(メダカ)、生息環境として不適になったので、各水路内で底質や水草が残っている場所に移動したことによることがわかりました。
3つ目は、千葉県大網白里町の谷津田に造成したビオトープに農薬を実用濃度投入して水生生物と底生生物の密度を長期間にわたって調査したものです。水田で使用される殺虫剤を合計5種類各々の実用濃度相当量を投入しましたが、水中・底質中濃度はいずれも短期間に減衰して検出限界以下になり、水生生物と底生生物に対する影響もほとんどないことが確認されました。殺虫剤の種類によってはユスリカ幼虫やコミズムシなど一部の生物に影響を及ぼしたものもありましたが、時間の経過とともにこれらの生物は回復し、影響は一時的であることがわかりました。水槽内で強制的に一定の農薬濃度に暴露させる試験と違って、環境が連続している野外では、生物には移動の自由があったり、農薬濃度に不均一が生じるので、特定の生物が全滅することは稀で、高濃度の農薬への暴露を避けて生き残った生物が再繁殖して元の密度を回復するということです。
千葉県東金市では絶滅危惧種のゲンジボタルが生息している水路がありますが、湧水が一年中流れている土の素掘りの水路です。こういうところでは、水草が生えて、ホタルの餌になるカワニナという貝が発生できるので、田植えの時期には水田で散布した農薬が流入しても、ゲンジボタルが生息しています。一方、最近ほとんどの水田で見られるコンクリート3面張りの水路は補修が不必要で便利かもしれませんが、土と接していないので水草が生えずカワニナも発生せず、ゲンジボタルは生息できません。

メディア関係者の農薬の進歩に関する認識不足もあって、国民の多くは相変わらず農薬は環境に悪影響を及ぼしていると思い込んでいますが、それは誤解で、現在の進歩した農薬はそのような悪影響を及ぼしていないことをご理解いただきたいと思います。
なお、開発によって(特に都市近郊では)昔は農地周辺にあった“ため池”や自然湿地が埋め立てられて宅地化し、水生生物が緊急避難できる逃げ場(レフージア)がなくなったことが生物相を貧弱にしていることは事実です。また、新興住宅地近くの水路では、家庭の一般雑排水が流入して汚染をしているところもあり、そこに含まれる洗剤や抗菌物質(例えば、人気ヘヤーシャンプーに含まれていたジンクピリチオンなど)がメダカのような水生生物に悪影響を及ぼすことも事実です。

従って、コンクリート3面張りの水路を止めて、水が1年中流れている土の素掘りの水路を造れば、メダカを身近に普通に見られるようになる筈です。また、この辺り(関東地方)の水田は7月中旬には水を抜いて地面をひび割れさせて稲の根に酸素を供給させるために乾田化します。その時期にメダカをはじめ水生生物が水田から逃げ込める“ため池”を近くに設置することも、生物多様性を維持するのに役に立つ筈です。

もし、さらに詳しい情報が必要でしたら喜んでご説明に参上致しますので、ご遠慮なくお知らせ下さいと当該筆者にお知らせ下さい。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

今日は江戸川堤防を18Km 走ってきましたので、累計は582Km/62日になりました。