2012年7月25日水曜日

JR特急さざなみ1号は空いていたので3人そろって座れました。館山駅に到着後レンタカーを借りて平砂浦に行きました。猛暑日でしたが、汗をびっしょりかきながら平砂浦遊歩道から松林(今は枯れてほとんど壊滅状態)の中に入り念入りに視察しました。7月11日に視察した時にはわずかですが生き残っていた松もあったのですが、わずか2週間でそれらにも松枯れ症状が進行していましたので、今秋には全部枯れてしまうかもしれません。
6月27日に2回目のエコワンフロアブル(有効成分はネオニコチノイド剤のチアクロプリド)をスパウターと呼ばれる大型散布機で道路から散布した筈ですが、地上散布ではスパウターが移動できる道路側からしか散布ができないので、薬液が届かない林分では効果がないのは当然です。道路にはみ出した松枝の下の道路上には無数のマツノマダラカミキリ成虫の死骸がありましたので、薬液がかかった松枝に寄生していた成虫に対しては効果があったことがわかります。
今年発生した成虫は当年枝を後食(こうしょく)し、一部はすでに産卵し、孵化幼虫が樹皮下で形成層を食害していました。場所によっては、姿は見えなくても幼虫が樹皮下でボリボリかじっている音が聞こえました。

車で外房(そとぼう)沿いに北上して途中東浪見(とらみ)海岸に寄ってみました。大きな松はすでにほとんど枯れて、更新された生育途上の小さな松がありましたがそれも何割かは松枯れが進行中で、今年発生した成虫が当年枝を後食しているところも確認できました。

さらに北上して九十九里の蓮沼海浜公園の松枯れのその後の状況を視察しました。展望台の前辺りの松が文字通り松枯れで全滅状態で、今年枯れた松は伐倒・玉切りにされてブルーシートで覆われていました。昆虫寄生性病原菌ボーベリア菌(ボーベリアバシアーナ F-263株の分生子、商品名はバイオリサ・マダラ)を接種してある絆創膏みたいなテープ(不織布)が玉切りされた松枝に貼ってありました。羽化脱出してきた成虫は丸太の上を歩き回ってこれに触れればボーベリア菌に感染しやがて発病して死ぬ筈ですが、実際にはシートの下の松枝上でテープに触れずに留まっている成虫や、ブルーシートの上に出てきている成虫も見られました。これらの成虫が健全な松の当年枝に飛んでいって後食(こうしょく)すればセンチュウを伝搬するのではないか、ちょっと心配になりました。ブルーシートの大きさが不十分で積み重ねられた丸太の高さの半分くらいまでしか被されていなかったからかもしれません。こういう処理方法でいいのか、この方法を開発された元(独)森林総合研究所の研究者に今度確認してみようと思っています。

茂原でレンタカーを返して、特急の時間まで駅近くのレストランでビールを一杯と夕食を食べながら3人で今日の視察の結果を話し合いました。有人ヘリコプターで有機リン殺虫剤のスミパインMCを散布していた2007年まではしっかり守られていた松林がこういう無残な状況になったのは、農薬反対活動家グループの反対運動でヘリコプターによる有機リン殺虫剤の散布が中止に追い込まれ、残効性の短いネオニコチノイド剤(エコワンフロアブルとマツグリーン液剤2)の地上散布に切り換えられたことが原因と推察されます。それでも君ヶ浜の国有林のように適期に2回散布をして、伐倒駆除もきちんとしていれば守られた筈ですが、予算の制約などから1回散布しかできず伐倒駆除も不十分にしかできなければ、5月~8月まで羽化脱出してくるマツノマダラカミキリ成虫に対応できないことは当然です。防除技術はあるにもかかわらず、2008年以来政治的・予算的制約から中途半端な防除しかできなかったことのツケがまわってきたというのが私の結論です。

もう一つ私が不思議に思ったことは、伐倒駆除した跡地に何故同じ本数(少なくとも)の松苗を植林しないかということです。伐倒だけしていけば松林が消滅していくのは目に見えています。毎年枯れた分だけ補植をしていくことは、行政のやる事業としては予算化しにくくやれないというようなことがあるのだとしたら、それもひとつの問題だなあという気がします。

ここまで被害が深刻になれば、かつて日本の白砂青松100選にも選ばれた(美しかった)平砂浦の松林も九十九里の松林も遠からず消滅する日がくるでしょう。こうなると、今後どうするかということが政治的課題になってくる筈です。東北大震災の後、電力不足問題が顕在化している現状にかんがみ、松が枯れた後の海岸に太陽光発電のパネルを設置したり、風力発電の風車を設置したらどうかというアイデアも冗談交じりにささやかれているとのこと。一案だとは思いますが、昔から地元の住民が苦しめられてきた強風害、飛砂害、潮風害などをどう解決するか、場合によっては起こるかもしれない津波に対する備えも含めて考える必要があるのでしょう。

朝早くから一日かけての猛暑の中での視察で疲れましたが、現場に出てよかったと思います。現場に出ると毎回新しい発見や体験があります。林野庁の森林保護対策室長にとっても、有意義だった筈です。今日の経験を国としての林野行政に生かしていただきたいと思います。

      (写真はクリックすると拡大できます。)