2013年7月6日土曜日

昨日の講演会には報道関係者以外にも、千葉大学の古い卒業生や、林野庁関係者や、森林総合研究所で松くい虫防除の研究を担当してこられたOBの方々も参加しておられ、久し振りにご挨拶できました。一部の報道関係者からは、講演の内容をどこか学会誌に掲載してもらえないかと要望されました。今は時間の余裕がないので、後半の15分くらいでカバーしたミツバチのCCD(蜂群崩壊症候群)とネオニコチノイド剤との関係の部分についてだけ、使用したスライドと講演テキストをこのブログに紹介しておきます。短い時間で準備をしたので、金沢大学の先生方が実験に用いた薬剤濃度についてだけ検証してあります。市橋君の更生を支援する会の活動とは無関係ですが、私がどういうことに関わっているか興味のある方は目を通してみて下さい。
    (スライドはクリックすると拡大できます)
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講演テキスト
農薬工業会第10回報道関係者との情報交歓会(2013.7.5 丸ビル)
CCD(蜂群崩壊症候群)とネオニコチノイド剤との関係は証明されたか?
本山直樹
スライドNO.
1.    臨床環境医学会という学会のシンポジウムで金沢大学の山田敏郎教授らのグループが発表した「ジノテフランとクロチアニジンの蜂群に及ぼす影響」という研究が社会的におおきな注目を集めて、最近参議院環境委員会と衆議院環境委員会でもネオニコチノイド系殺虫剤がミツバチに与える影響について国会議員による質問が行われた。
この研究論文には、千葉大学時代の私の研究室の卒業生の岩佐君が何年も前にアメリカの大学に留学中に行った研究で、私も共著者の一人として学会誌に投稿・掲載された論文が引用されている。
2.    CCDは英語のColony Collapse Disorderの略で、日本語では蜂群崩壊症候群と呼ばれる。
何かの原因でミツバチが大量死する事故とは異なり、餌・幼虫・女王蜂が残っているにも関わらず働き蜂が行方不明になって社会性昆虫のミツバチの群(コロニー)が崩壊する現象で、アメリカやヨーロッパで発生。
実は過去(例えば1896年)にも同様な現象があったという報告がある。
原因についてはアメリカやヨーロッパで盛んに研究が行われた。ここに挙げたようないろいろな要因が疑われ、ネオニコチノイド系殺虫剤も要因の一つとして疑われているが、今のところまだ定説はない。
3.    山田教授らの研究で使われたジノテフラン、クロチアニジンというのは、現在農薬登録されているネオニコチノイド系殺虫剤7剤の中の2つ。
イミダクロプリドと同様にミツバチに毒性が高い5剤の中に含まれる。
ネオニコチノイド剤の中には、アセタミプリドやチアクロプリドにようにミツバチに対して毒性の低いものもある。
これらのネオニコチノイド剤は、各種作物の各種害虫の防除に使われ、作物保護に重要な貢献をしている。
4.    山田教授らの研究では、これら2つの殺虫剤の実用散布液濃度を100倍(低濃度)、50倍(中濃度)、10倍(高濃度)希釈した濃度になるように餌に混入してミツバチの巣箱の中に置いて長期間自由に摂取させた。
高濃度区では急性毒性の影響が短期間で発現したが、低濃度区では徐々に蜂数が減少し、約3ケ月後にコロニーは消滅した。
餌の減少量からミツバチが摂取した殺虫剤の量を計算すると、岩佐君らの報告したこれらの殺虫剤の経皮毒性の量とほぼ同じ範囲であった。
これらの結果から、山田教授らは低濃度のネオニコチノイド剤がCCDを通して蜂群崩壊をもたらすことを世界で初めて明らかにしたと考察した。
5.    ネオニコチノイド系殺虫剤7剤の物理化学性の一覧表。
有機リン殺虫剤のフェニトロチオンと比較すると、ネオニコチノイド剤は①蒸気圧が低いので大気中に揮発しにくい、②水溶性が高い、③水-オクタノール分配係数に違いもあるので、個々のネオニコチノイド剤によって作用性の違いもある。
6.    ネオニコチノイド剤の日本国内での過去5年間の原体出荷量を見ると、約450tで推移しているが、ジノテフランとクロチアニジンがトップ2。だから、山田教授らの実験ではこの2つの殺虫剤を選んだのかもしれない。
7.    ネオニコチノイド剤のラットとミツバチに対する経口毒性と経皮毒性の一覧表。
ラットは哺乳動物の代表としてよく毒性試験に用いられるが、先ず経皮毒性についてみるとネオニコチノイド剤はいずれも2,000mg/kg以上で非常に安全性が高い。経口毒性については剤によって異なるが、原体のLD5050mg~300mg/kgの劇物に入るのはアセタミプリドだけで、他は全ていわゆる普通物相当。クロチアニジンとジノテフランはいずれも5,000mg/kg以上で、哺乳動物に対して特に毒性が低い。
一方ミツバチに対しては、一般にアセタミプリドとチアクロプリドは毒性が低いが、その他は毒性が高い。経皮毒性に複数の値があるのは、引用した文献によって値が異なるからで、*のついているのは私も共著者の岩佐君らの論文で報告されている値である。
クロチアニジンの経口毒性は3.79ng/bee、ジノテフランの経口毒性は23ng/beeまたは14ng/beeという値が報告されている。
8.    クロチアニジンを水田のカメムシ防除に使う時は、有効成分16%4,000倍希釈液が60150/10a散布される。水田の水深が5cm、散布液はイネに捕捉さえずに全て田面水に落下すると仮定して算出した散布直後の水中濃度は、0.0480.12ppmになる。
一方、山田教授らの実験で餌に混入してミツバチに連続的に摂取させた濃度は0.44ppmだから、田面水中の理論的予測濃度より10倍くらい高いことになる。
9.    同様にジノテフランについて検証してみると、水中濃度0.120.3ppmに比べて、山田教授らが実験に用いた濃度110ppm10倍くらい高いことになる。
10. ミツバチ1頭当り一日当りの採餌(糖)量は外勤の働き蜂の場合は32.128128mgとされているので、平均80mgとして、山田教授らの実験で餌に混ぜて与えた濃度からミツバチの摂取量を計算してみると、ジノテフランは32ng/bee/dayとなり、クロチアニジンは80ng/bee/dayとなる。
これらは、クロチアニジンの急性経口毒性値の3.79ng/bee、ジノテフランの急性経口毒性値14ng/bee又は23ng/beeよりも高い。
すなわち、山田教授らの実験では、両方の薬剤とも急性経口毒性の致死薬量を長期間投与し続けたということになり、ミツバチが全滅したのは当然である。ネオニコチノイド剤がCCDを起こすことを明らかにしたという考察には無理がある。
11. 玉川大学のミツバチ研究所の先生たちも、日本ではCCDが起こっていることは証明されていないという見解だと伺ったが、農水省生産局畜産部が公表している日本でのみつばち飼養ほう群数の統計をみると、約20万弱で安定していて過去10年間減少していないことが明らか。
むしろみつ源面積が、30年近く前の1985年には35ha以上あったのが、2010年には15ha以下と急激に減少していることが今後養蜂業にとっては深刻な問題になるのではと想像される。
12. 殺虫剤は作物生産を損なう害虫を防除するために開発された薬剤なので、ミツバチを含めて害虫以外の昆虫に影響を与えることは当然予想される。
人間が病気の時に使う医薬と同じように、作物を病害虫から守るために使う農薬も、副作用が起こらないように適正に使うことが大事。
これは、ジノテフランに添付されている注意書きであるが、ミツバチに対する毒性が高いからといって使用禁止にするのではなく、使用者の注意を喚起し、場合によっては養蜂業者とも連絡を密にしてミツバチへの危害を防ぐようにするべき。
13. 余計なスライドかもしれないが、自動車のリスクを考えてみると、私たちが赤信号で信号待ちをしている前を通過する自動車の排気ガスには多くの健康リスクがある。しかも2012年の統計をみると、年間に66万件の交通事故があり、負傷者数は82万人、死者も4千人を超えていて、実際に自動車による危害は起こっている。
しかし、自動車の持っている便益性を考慮して、自動車を禁止するのではなく、運転者に安全運転マナーを徹底したり、歩行者にも交通ルールを守るように教育したりして、事故発生を減らす努力をする。
ネオニコチノイド剤とミツバチの関係も同じような気がする。
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