2015年5月18日月曜日

今年の実験に使うマツノマダラカミキリ成虫を発生させる松くい虫被害木の入手に苦労しています。当初は千葉県和田浦での伐倒木を南部林業事務所の協力で入手する予定でしたが、集積場に残されていた丸太は寄生がないものばかりでした。次に茨城県水戸土木事務所の協力で大洗海岸で伐倒作業中のものを入手する予定でしたが、年越し枯れがほとんどでマツノマダラカミキリは寄生していませんでした。樹木医のA氏が筑波市の近くの民有林の山主の許可を得て松くい虫被害木を伐倒しましたが、やはり年越し枯れだったらしくほとんど寄生していませんでした。
もう少ししたら成虫が羽化脱出してくる時期ですので、今年は散布された殺虫剤の残効性を生物検定で評価するのは無理で、化学分析しかできないかなとあきらめかけていましたが、念のために茨城県神栖(かみす)市の鹿島灘に面した砂防松林に松くい虫被害木が残っていないか見に行くことにしました。
自分の車を運転して朝9時半に松戸を出発し、途中同じ方角なので、昔千葉大学で現職の頃有人ヘリコプターで水田に散布された薬剤の水路中の動態と生態影響を何年間か調査した千葉県香取市山田区(旧香取郡山田町)に寄って、水田の様子を見てきました。江戸時代に土井利勝によって整備された橘堰(たちばなぜき)の上流の神生(かんのう)地区の仁良(にら)川も、下流の田部(たべ)地区の水田も以前のままで、湧水で1年中水が枯れない1本の小さい水田水路には相変わらず土着の黒いメダカが多数泳いでいました。

せっかくなので近くの香取市府馬の大クス(実際は楠ではなく、タブノキ)にも寄ってみました。説明書きには樹齢1,300年~1,500年と書いてありましたが、相変わらず威厳を感じるりっぱな大木でした。展望台からの麻積(あさか? 読み方はわかりません)千丈ケ谷と呼ばれる谷津田の眺めも素晴らしいものでした。

神栖市役所の農林課に寄って、砂防松林の松くい虫被害状況に関する情報を得ようと思い、対応してくれた職員と名刺交換をしましたら、偶然松くい虫担当の係長で私のことを知っている人でした(私にとっては初対面)。工業団地から鹿島灘に面した浜辺の通りを波崎(はさき)の方に運転したら、伐倒された被害木が所々に集積してありました。持参した手斧で樹皮を剥いで調べてみたら、マツノマダラカミキリ幼虫の潜入孔とフラス(虫糞と木屑)がかなりあり、脱出口はありませんでしたので、丸太の中に寄生虫が存在していることがわかりました。すぐ近くに伐倒作業をしている造園会社の工事主任もいましたので、いつ伐倒木を搬出するか確かめたら、工期が22日(金)までになっているとのことでした。すぐ市役所の係長に電話をして了解を得て、工事主任にも私たちが20日(水)に2トン積みのトラックを持ってきて必要なだけ伐倒木を積み込むので、それまでは搬出しないように依頼して了解を得ました。樹木医のA氏にも電話をして、トラックの予約を依頼しました。これで、今年の実験に使う供試虫が確保できる筈です。諦めずに現地を訪ねてみて、ラッキーでした。

この辺りは風力発電の風車が多数立っていました。砂防松林は松くい虫被害でボロボロでしたが、有人ヘリでスミパインを散布して防除していたのを、途中から農薬のポジティブリスト制が施行されて周辺農地への飛散による汚染を回避するために(スミパインの有効成分のフェニトロチオンは大半の作物に適用がある筈なので、これは言い訳?)中止し、無人ヘリに切り替えて薬剤もより安全な(これも多分農薬メーカーの営業担当者の営業トーク?)ネオニコチノイド剤に切り替えたとのことでした。しかし、防除効果が低く被害があまりにも大きいので、スミパイン散布に戻す予定とのことでした。防除に失敗しているところはどこでも、薬剤の残効性を考えない散布回数(1回だけ)とドリフトを恐れた不十分な散布による散布むらと、次世代の発生源になる被害木の放置、という共通の要因が見られます。
砂防林跡地への植林には広葉樹のマサキ、トベラの他にカイズカイブキらしき樹種が植えられていましたが、鹿か野兎の食害を防ぐためかナイロンメッシュが被せてありました。