2015年5月19日火曜日

東京農業大学総合研究所の事務から、学外者から研究会農薬部会宛に届いた農薬に関する質問が転送されてきましたので、以下のような返信をしておきました。
質問の趣旨は、(1)樹木(野菜も)の害虫防除で散布された農薬はどれくらいの期間残留していて薬効を示すのか、(2)農薬の成分が空気中に飛散するモデル図やメカニズなどについて知りたい、ということでした。

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〇〇〇〇様
 ご質問に対する私個人の見解は以下の通りです。
(1)樹木や野菜の病害虫防除で散布された農薬の残効性(どれくらいの期間防除効果があるか)、残留性(どれくらいの期間残留しているか)は農薬の種類によって異なりますし、散布後の気象条件(気温、日照、降雨)によって異なりますし、作物(植物)の種類や形状によっても異なります。ご質問の趣旨は、多分どれくらいの期間が経過すれば暴露(触ったり吸入したり)しても安全か、食べても安全かを知りたいということではと想像します。全ての農薬は、農薬として登録認可される時に、防除効果や薬害に関する実証試験に加えて、安全性に関わる膨大な試験が実施され、それらのデータに基づいて使用基準として適用作物、使用濃度、使用量、栽培中の総使用回数、使用時期(収穫何日前まで使用してもよいか)が設定されます。使用時期は、その農薬の残留性によって、収穫前日もありますし、3日前、1週間前、などもあります。いずれの場合も、使用基準を遵守する限り、収穫時の残留濃度は収穫物を洗わずにそのまま食べても健康に全く影響がないレベルに低下していますので、安全は確保されています。残効性も残留性と同様に、農薬の種類、気象条件、作物の種類、防除対象病害虫の種類によって異なります。残効性は、防除の経済性から言えば長い方が有利ですが、長過ぎると反対に病害虫による抵抗性発達のリスクが高まります。一般に残効性は短い農薬が多いので、農家は栽培期間の長い作物を長期間病害虫から保護するのには農薬を複数回散布しなければならず、苦労をしているのが実態だと思います。
(2)散布された農薬が空気中に飛散するモデルがあるかとのご質問の趣旨は、周辺住民の健康への影響は大丈夫か知りたいということではと想像します。農薬の環境影響については、環境省が水田モデルで環境中予測濃度(PEC)と水生生物への無影響濃度(NOAEL)=AEC(急性影響濃度)で代用を比較して、登録保留基準を設定する仕組みになっています。農薬の大気への移行には、その農薬の蒸気圧、気温、葉面温度、風などが影響します。農薬の吸入毒性については、登録時に、実験動物を供試して吸入毒性試験が実施されて評価されています。気中濃度の安全性については、産業衛生学会が農薬以外の化学物質も含めて成人が1日8時間吸入し続けて作業してもよいとする評価値を設定しています。私たち(本山と共同研究者)は過去10年間、松くい虫防除目的で有人ヘリコプター、無人ヘリコプター、スパウターと呼ばれる大型散布機で松林に大規模散布された農薬の周辺環境への飛散について全国各地で測定・調査してきましたが、気中濃度は検出限界以下か、検出されても健康に影響を及ぼす閾値(いきち)以下で、健康影響の問題はないことを繰り返し明らかにしてきました。化学物質過敏症という特殊体質の患者にとっては、閾値は存在しないという主張もありますが、2005年に群馬県で散布が中止されたにもかかわらずそれを知らなかった化学物質過敏症の患者2名が体調悪化を訴えた事例がありましたので、実際の暴露ではなく、化学物質恐怖症による精神的ストレスが体調悪化の原因であることを証明しました。
 
なお、農薬工業会のホームページ http://www.jcpa.or.jp/about/  に「お問い合わせ」というサイト  http://www.jcpa.or.jp/info/ がありますので、さらにご質問がある場合は、そちらにお問い合わせいただくのがよいと思います。
私に答えられることについては喜んでお答えしますので、遠慮なくご質問をお寄せ下さい。
本山直樹
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郵便局に行ったついでに、江戸川堤防を1時間ウォーキングしてきました。
明日は、朝早く自宅を出て電車で土浦駅で樹木医のA氏と待ち合わせ、2トン積みトラックを運転して茨城県神栖市に行き、海岸砂防林で伐倒された松くい虫被害木の丸太を採集してくる予定です。