2016年3月30日水曜日

東京都新宿区の国立感染症研究所で日本衛星動物学会東日本支部例会が開催され、2004年に代々木公園で発生して大きな問題になったデング熱と今年ブラジルで話題になったジカ熱の特集でしたので、私も聴講してきました。
一昨年(2014年)の夏に代々木公園で発生して大騒ぎをしたデング熱に国、都、区、PCO(防除業者)がどう対応したかを振り返って、今後同様の問題が起こった時のために備えるというのが趣旨の企画でした。デング熱と同様に蚊が媒介する感染症には、日本脳炎、黄熱ウィルス、チクングニア熱、西ナイル熱、ジカウィルスがあるようですが、その他にダニ類が媒介する各種ウィルスもあるようで、しかもデング熱をもたらすウィルスにも少なくとも4つの型が存在して病原性が異なるということですので、ウィルスの遺伝子に変異が起こっているのでしょう。デング熱の媒介者は日本ではヒトスジシマカ(いわゆるヤブ蚊)ですから、対策はその幼虫(ボウフラ)が発生する場所(水溜り)を作らなかったり、昆虫成長抑制剤(Insect Growth Regulatoer)を発生源の水溜りに投与したり、成虫を殺虫剤散布で防除したり、長そで・長ズボンを着用したり忌避剤を体に施用して蚊に吸血されるのを防ぐ、ということになります。
問題は世界のデング熱流行地を旅行して感染した人が帰国してヒトスジシマカに吸血されると、他のヒトが同じ蚊に吸血されることで感染が拡大する二次感染が起こり得るということです。
それを防ぐために一昨年は代々木公園を中心に、新宿中央公園、上野公園、その他で徹底的な対策がとられましたが、公園内のブルーシートで暮らしているホームレスの人たちが移動することで感染が拡大する場合も考えられ、人権問題もあって行政機関も対応が難しい場面もあるようです。
殺虫剤の散布や昆虫成長抑制剤の投与作業は、行政機関だけでやる場合と、PCOに委託してやってもらう場合と、共同でやる場合があるようですが、その連携にも問題があったようです。
昨年(2015年)は幸いデング熱の発生は報告がなかったようですが、海外旅行者が多い現状から、将来大規模発生が起こった時に対応できるように、防疫用薬剤をストックしておくべきとの提案もありました。もっともな提案ですが、防疫用薬剤の有効期間は通常3年間ということですので、3年に1回は新しい薬剤と置き換えなければならないということについて国民の理解が得られるかという問題もあるようです。しかし、流行してから農薬メーカーに製造を要請しても、対応するのには約8ケ月かかるということですから、流行を抑えるのに間に合わないというジレンマもあります。

実際の成虫防除で散布された薬剤は、谷川 力氏によると千葉市の場合は合成ピレスロイド剤のETF水性乳剤(エトフェンプロクス7%)の50倍希釈液を500mℓ/m2、とスミスリン水性乳剤(フェノトリン10%)の50倍希釈液を50mℓ/m2、と炭酸ガス製剤(フェノトリン1%)を1g/m2だったようです。各自治体へのアンケート調査を行った皆川恵子氏によると、その他に有機リン殺虫剤も使われたようです。幼虫防除についてはやはり皆川恵子氏によると、3種類のIGRの他に、有機リン剤、合成ピレスロイド剤、ネオニコチノイド剤、BT剤が使われたようです。
散布作業は当時テレビでよく代々木公園で霧状の散布液を散布している光景が報道されましたが、作業者にとってはビデオカメラで追いかけ回す報道陣に囲まれて作業をするのは相当なストレスになったようです。あれだけ通行人や住宅地・オフィスに接近した東京の真ん中で連日のように大規模な殺虫剤散布をしていたにもかかわらず、いつもだったら大騒ぎをする筈の反農薬活動家グループの反対の声が聞こえなかったのは不思議な気がしました。実際には散布している殺虫剤について質問状が届いたそうですが、何故これらの殺虫剤を選んだかをきちんと説明したら、それ以上の妨害行為はなかったとのことでした。松くい虫防除や農業現場での殺虫剤散布と違って、今回はデング熱を媒介する蚊を防除して感染症の流行を抑えるという意味で受益者がはっきりしていたので、反対をしたら国民に袋叩きにされかねないという配慮が働いたのでしょうか。