2016年7月3日日曜日

7月6日の講義資料は、スライドを何枚か追加して宅ファイル便で発送しました。あとは、当日までに時間の配分をしたり、研修生の検査員に一番伝えたい内容は何かを絞ったり、少し手を加えれば準備は終わりです。

今日は甚兵衛の森で朝9時に樹木医仲間たちが集まって調査をする日でしたので、私も参加しました。青空でしたので、コンビニ側から見る樹齢約300年のマツの巨大木が見事でした。甚兵衛の森の道路側には3台の飲料自動販売機が置いてありますが、6月に松くい虫防除の薬剤散布が3回行われた時は、1回目は何もカバーせずに散布、私が散布作業を受託した業者に安全性上適切ではないという指摘の手紙を郵送したことに応じて2回目は1台だけブルーシートでカバーして散布、3回目は2台だけカバーして散布しましたが、3台目は相変わらずカバー無しでした。現場の農薬散布作業者の安全管理に関する意識を高める必要があることを認識させられた経験でした。
甚兵衛の森に隣接する水田も一段と緑色が濃くなり、すでに落水して中干(なかぼし)を始めた区画とまだ湛水したままの区画がありました。湛水したままの水田の畔からはタニシ類や巻貝やスクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)?のように見える貝も水の中でうごめいているのが見えました。

今日の参加者は私を含めて6人でしたが、メインの調査は地元の樹木医の吉岡賢人君が作ったマツの根を埋めた土を板と透明なアクリル板の間に挟んでクロカミキリ成虫を放飼した装置を解体して、クロカミキリ成虫の土中での行動を皆で観察することでした。吉岡君は、市販のプラスチック製の小型のアリ観察装置にもマツの根とクロカミキリ成虫を入れて準備をしてくれていました。
アクリル板を外すと、交尾を始める成虫がいたので雌雄の区別ができるようになりました。背中の立筋が不鮮明で滑らかなのが雌で、立筋がはっきりしているのが雄のようです。
一番の発見は、市販のプラスチック製のアリの行動観察用の装置を解体して取り出したマツの根に、クロカミキリの産卵痕と思われる小さな穴が多数見つかったことです。これが本当に産卵痕で、この根の断片からDNA診断でマツノザイセンチュウが確認されれば、私たちの仮説通り、クロカミキリ成虫が根に産卵する時にマツノザイセンチュウが根から侵入する、を証明する一つの証拠になります。皆で吉岡君には、この穴は雌が作るのか雄が作るのかはっきりさせるために、さらに装置を買い足して、雌だけ、雄だけ、雌雄両方放飼する区を設置することと、無処理区としてマツの根だけ入れてクロカミキリ成虫を入れない区を追加して再試験するように提案しました。
地元の成田ケーブルTVの映像通信員のT氏(元成田市役所観光課職員)も来ていて、調査風景を映像に撮ったり吉岡君にインタビューをしたりしていましたので、地元の貴重な文化財の甚兵衛の森を守る市民の活動としてTVで紹介されるのかもしれません。

ショッキングな発見は、宝くじの収益金の寄付で植栽したマツ材線虫病抵抗性マツの1本が枯れ進行中ですが、この木の幹にマツノマダラカミキリの産卵痕が少なくとも4つ見つかったことです。以前から、甚兵衛の森の周辺を回ってどこにマツが分布していて、マツノマダラカミキリの発生源になる松枯れ木が存在しているかどうか分布図を作る必要があると相談はしていたのですが、今日産卵痕が見つかったということは、すでにどこかからマツノマダラカミキリが甚兵衛の森に飛んできているということを示します。6月に3回実施した薬剤散布が一番守りたい樹齢約300年のマツの巨大木の樹冠部に十分量届かなかったことは極めて危険な状況ですので、飛んできたマツノマダラカミキリがこれらのマツの当年枝・1年枝を後食(こうしょく)してすでにマツノザイセンチュウの侵入が起こっていないことを願っています。

その後、造園業をやっている吉岡君の自宅に移動して、自宅の庭に設置してあるマツ大苗にクロカミキリ成虫を接種した試験の様子を観察しました。成虫が地面に潜った穴はありましたが、今のところまだ肉眼では樹勢の衰えは認められませんでした。
これとは別に、侵入害虫で2012年に愛知県で初めて確認され、最近埼玉県をはじめあちこちで分布拡大が確認されつつあるクビアカツヤカミキリの雌雄1対をサクラの木の分岐した幹の片方に接種して産卵させる試験をしている様子を見に行きました。
http://image.search.yahoo.co.jp/search?rkf=2&ei=UTF-8&p=%E3%82%AF%E3%83%93%E3%82%A2%E3%82%AB%E3%83%84%E3%83%A4%E3%82%AB%E3%83%9F%E3%82%AD%E3%83%AA
逃亡防止のネットを外しましたが、産卵痕は私たちの目では確認できませんでした。もし産卵されていれば、孵化した幼虫が幹に穿孔して食害するのでフラス(虫糞と木屑の混合物)が発生する筈です。
この害虫が蔓延して日本中の貴重なサクラその他の樹種に被害が広がると大変です。今のうちに生態や生活史をよく観察して、防除方法を考えることがこの試験の目的です。

茨城県樹木医会の会長をしている阿部 豊氏にマツノマダラカミキリ成虫の雌雄をほしいと依頼しておきましたら、今日持参してくれましたので、先日クロカミキリ成虫の標本作成をアルバイトで依頼した千葉大学園芸学部の応用昆虫学研究室の大学院生に渡して追加で標本を作製してもらおうと思っています。松枯れ問題について講演をする時に、写真だけでなく実物の標本を見せられればと思っています。