2017年6月24日土曜日

吉岡賢人君を中心とする樹木医会の仲間たちが午前9時に成田市の甚兵衛の森に集合予定でしたので、私も千葉大学園芸学部の先輩のI博士と一緒に参加しました。私たちを含めて9人が集まりました。
今日の調査は(1)樹木医で地元の造園業者の吉岡賢人君(千葉大学園芸学部の卒業生)が昨年自宅の庭に網室を作って、マツの大苗2本の株元にクロカミキリ成虫を各120頭ほど接種(放虫)して、マツノマダラカミキリがいない条件下でマツを枯死させるかどうかに関する試験をし、1本(A樹)は衰弱、1本(B樹)は枯死しましたが、それぞれの根がどうなっているかを調べること、(2)甚兵衛の森の林縁部で時間をおいて、マツノマダラカミキリの後食(摂食)痕なしに枯死した2本の樹齢の若いマツの根の状態を調べること、(3)マツの株元に殺虫剤(アセタミプリド)の粒剤を施用して、クロカミキリ成虫が地面に潜って根に産卵するのを防ぐ効果を試験すること、(4)ちょうど1ケ月前の5月25日に散布したスミパインMC(有効成分フェニトロチオン)の残留濃度を分析するために、老大木の樹冠部の枝先を採取すること、でした。
樹木医の人たちのこういう地道な調査研究の努力によって、マツノマダラカミキリ以外のマツノザイセンチュウの感染経路や、マツノマダラカミキリ以外の松枯れの原因が明らかになって、科学に基づいたより効果的な防除対策の開発につながることは大変ありがたいことです。

A樹とB樹の根を丁寧に解体して調査をしたところ、いずれからもクロカミキリ幼虫、蛹、成虫が発見されましたが、B樹の方が個体数は多いことがわかりました。B樹はあらかじめ、根の表皮の一部を環状剥離して傷つけ、さらに九十九里浜から汲んできた海水約20ℓを灌水してストレスをかけてありました。
複数部位の材片を採取してマツノザイセンチュウのDNA診断をしたところ、A樹の根の1検体だけが陽性反応を示しました。
これらの結果をどう考察するか難しいところですが、クロカミキリ成虫はマツの健全木と衰弱木の両方の根を加害し、マツノザイセンチュウを保持している場合は根に産卵する時に根から感染させる場合もあり得ると想像できます。また、衰弱木の場合は樹脂の分泌が少なく病害虫に対する抵抗力が弱いのか、クロカミキリ幼虫の食害が活発でそれだけでマツを枯死させる場合もあり得る、という想像もできます。
いずれの想像も、今回の試験では無処理区がないことと、反復がないことから、想像の域を出ません。来年はもっと多くの苗を供試して、今回得られた結果を再現する試験が必要です。
もう1点明らかになったことは、クロカミキリは年1化性で、1年で成虫が発生してくるということです。










林縁部で枯死した2本の樹齢の若いマツの根からも多数のクロカミキリ幼虫が発見されました。最初のマツノザイセンチュウがどういう経路で侵入したのかは不明ですが、根にクロカミキリ幼虫がいたということは、何らかの原因で衰弱したマツを選んでクロカミキリが食害して枯死を促進している可能性も考えられます。






クロカミキリ成虫は夜行性で、吉岡賢人君の毎晩の観察では夕方の一定の時間にしか活動しないとのことですので、地面に潜って根に産卵するのを防ぐ方法の開発は防除対策として重要です。アセタミプリド粒剤の株元施用によって、中毒枯死した成虫個体や中毒進行中の個体が観察されましたので、今後さらに薬剤の種類を増やして試験をしてみる価値がありそうです。ベストの防除効果を示す薬剤が絞り込めれば、適用拡大の申請をしてもらえないかメーカーに話をしてみるつもりです。




スミパインMCを散布したマツの枝先を採取する作業は、15mの高所作業車から木に移ってさらに樹冠部近くまで上って剪定ばさみで採取しますので危険な作業ですが、お蔭で散布4週間後の検体が入手できました。これからフェニトロチオンの残留濃度を分析する予定です。