2017年9月13日水曜日

昔、私が名古屋大学大学院生で日本育英会からの奨学金(全員ではなく、一部の人しかもらえなかった)に外れた時に、代わりに報農会から奨学金を支給されて大変助かりました。今は公益財団法人報農会 http://www.honokai.org/index.htm ですが、元々は日本特殊農薬株式会社がドイツのバイエル社から導入したパラチオン(ホリドール)という有機リン殺虫剤を販売して得た巨額の利益を、創業者・社長の館野一族の考えで植物保護事業の発展に還元するという目的で設立されたものです。当時、日本育英会の奨学金は修士課程が月額12,000円、博士課程が18,000円で、大学院修了後に(特定の条件を満たした一部の人を除いて)返還しなければならない貸付金でした。報農会の奨学金は修士課程が月額10,000円、博士課程が15,000円でしたが、返還不要の貸与金でした。現在は銀行の利子が安くなった影響で支給額は相対的に安くなりましたが、報農会は今でも奨学金の支給や、研究者の海外渡航の旅費の補助をしています。
その他に、1985年から植物保護ハイビジョンという報農会シンポジウムを主催し、その第32回目が今日JR王子駅前の「北とぴあ」のつつじホールで開催されました。理事長の立付貞洋先生(東大名誉教授)の開会の挨拶に続いて、5題の講演と講演者によるパネルディスカッションがありました。

1. 農薬取締行政の改革について-古畑 徹(農林水産省消費・安         全局農産安全管理課農薬対策室)
2. 海外での病害虫発生と生物農薬の使用・IPMの現場-平田秀嗣         (三井物産株式会社アグリサイエンス事業部)
3. 侵入害虫クビアカツヤカミキリの被害状況と防除対策-加賀谷         悦子(森林研究・整備機構 森林総合研究所)
4. アミノ酸による作物の病害抵抗性誘導-瀬尾茂美(国立研究開         発法人 農業・食品産業技術総合研究機構)
5. Bacillus 属等部生物を用いた病害防除とその展望-吉田重信(農         研機構中央農業研究センター)

いずれも大変勉強になる興味深い講演でした。私にとって特に興味深かったのは、古畑 徹氏が解説した農薬取締行政の中の、再評価制度の導入と原体規格制度の導入でした。前者によって、すでにEUで始まっているように日本でも古い農薬が淘汰されていく方向に向かうかもしれません。後者によって、将来は日本でもジェネリック農薬がもっと登場してくるかもしれません。
生物農薬とIPMとは切っても切り離せない関係ですが、世界では生物農薬市場が毎年約20%成長し続けて、植物保護の中で大きなシェアを占めつつあるのに対して、日本では農薬市場約3,500億円の中の約20億円程度で小さなシェアしか占めていない(貢献していない)のは何故かという議論は、結論が出ていない面白いテーマだと思いました。
また、アミノ酸や微生物資材による植物の病害抵抗性誘導の分野の研究・技術の進歩も興味深い内容でしたが、現行の化学農薬による防除体系に比べていくつかの弱点がありますので、果たしてどれぐらい貢献するようになるか・・。