2017年12月1日金曜日

昨日は、一日中机に向かって明後日12月2日(土)に予定されている2017年12月松園会勉強会での講演の準備をし、大体できました。

今日は東京農業大学総合研究所研究会農薬部会の第108回セミナーがあり、私は部会長で主催者ですから当然参加しました。世田谷キャンパスの正門横の大銀杏は黄葉が綺麗でした。


2題の講演があり、両方とも予想通り大変興味深い素晴らしい内容でした。
片瀬久美子博士は東京理科大学理工学部を卒業後、東洋紡績(株)に勤務し、その後京都大学大学院理学研究科で修士と博士の学位を取得した研究者ですが、現在はサイエンスライターとしていろいろな問題について調査をして情報を社会に発信している方です。今日は「微生物資材投入による河川等の水質浄化の検証と諸問題」という演題で、彼女がwarbler's diary ですでに3回にわたってシリーズで発表したEM菌の水質浄化効果に関する徹底検証について紹介しました。

    (スライドはクリックすると拡大できます)









片瀬博士は、EM菌の培養液とEM団子を投入して水質浄化効果があったと主張されている3ケ所の事例について、公的機関が実際に水質調査をした結果は浄化効果を示していないという事実をデータで説明しました。EM菌関係者が水質浄化の例として水の透明度が増すという点については、ミジンコ研究の第一人者の信州大学花里孝幸教授の考察(EM菌培養液のpH3~4という酸性条件下で大型ミジンコ類や植物プランクトン類が現存量を大きく減少させた結果、見かけ上湖水の透明度が増したように見えたに過ぎない)を引用して、水質浄化の根拠にはならないと指摘しました。
また、自然環境へのEM菌投入の根本的問題として、日本生態学会の自然再生事業指針を参照し、EM菌は沖縄で開発された微生物資材なのでそれは他の地域では外来生物に相当するので、外来生物を回収不可能の方法で環境中に大量に繰り返し投入することは地域独自の微生物生態系をかく乱することになるという問題点を指摘しました。
それにしても、EM菌開発者の比嘉照夫先生が、EM菌による水質浄化のメカニズムとして、「波動」という非科学的な観念を用いて説明しているということを知り、驚きました。

島根大学教授を本年3月に定年退職し、現在は特任教授という立場になられた尾添嘉久先生は「殺虫剤の標的イオンチャンネルとGPCR:最近の研究」という演題で、これまで40年間にわたって研究してこられたアミノ酸作動性Clイオンチャネルと、生体アミンGタンパク質共役型レセプター(GPCR)の構造と機能、リガンドの構造活性相関や作用機構の解明などについて総括しました。私が名古屋大学大学院生だった頃に見聞きしていた電気生理学と異なり、今は遺伝子のクローニングが可能になったので、アフリカツメガエル卵母細胞や動物培養細胞に遺伝子導入し、発現した膜タンパク質を機能解析できるようになったお蔭で、殺虫剤を含むリガンドの作用を個々のチャネルやレセプターレベルで調べられるようになったことを解説しました。







セミナー終了後は情報交換会(懇親会)があり、その後さらにいつものように山本 出先生のご自宅で両講師を囲んで少人数による二次会がありました。
二次会の席で、私が農薬の生態影響について、農薬が食料生産に果たしている役割を考えれば、特定の生物の密度が一時的に減少しても毎年回復するような影響ならアクセプタブルだと言ったことに対して、片瀬博士はそれは農薬に強い系統が生き残ったということで元々その地域に存在した遺伝的多様性が失われるということなので問題だと答えました。このコメントには、農学出身者と理学出身者の違いを改めて感じました。
もう何年も(20年ぐらい?)前に、ある大学の両生類に詳しい先生と場合によっては農薬の生態系影響について共同研究をできないかと思って、水田は食料生産工場なので、私はそこで使われる農薬が流出して水田周辺の生態系に悪影響を与えないようにすることを目指していると伝えたら、理学部出身のその先生は、農学部出身者はそういう考え方をするのかと驚いたようでした。反対に、自分が目指しているのは水田本来の生態系を回復したいということだと言いました。今度は私の方が、理学部出身者はそういう考え方をするのかと驚いたことを思い出します。水田本来の生態系というのは、牛馬で耕作をしていた昭和初期の時代のことか、明治時代のことか、江戸時代のことか、あるいは弥生時代のことか、いったいいつの時代の水田のことかという疑問が湧きました。農業技術の進歩に伴ってお米の生産性が高まり、そのお蔭で私たちは飢えることなく食料を入手できるようになったということと、水田そのものが食料生産のために自然を壊して造成した人工的な環境ですから、水田本来の生態系というのは矛盾していると思いました。