2018年6月12日火曜日

東京農業大学総合研究所研究会の一つ生物的防除部会の2018年度第1回講演会が世田谷キャンパスで開催され、2題の講演がありました。講演者はお二人ともそれぞれの県の農業現場で当該課題について直接研究や指導に従事しておられる研究者ですので、実際のデータに基づいた迫力がある講演で、他県の研究者や指導者にとっても大変参考になる内容でした。私自身も大変勉強させていただきました。

1題目は、福島県農業総合センター果樹研究所の荒川昭弘博士による「土着カブリダニ類を生かしたモモとナシのハダニ類管理」という演題で、減農薬ブームで登場した交信かく乱剤(フェロモン剤)の普及に伴って顕在化してきたハダニ類の被害対策として土着天敵のカブリダニを活用する方法について講演しました。
結論としては、カブリダニ類に低毒性の選択性殺虫剤の使用でカブリダニ類を温存してハダニ密度を低く管理するということでした。その場合に、果樹園の下草はカブリダニ類のレフュージアとして重要だが、必ずしもアップルミントのような温存植物を植栽する必要はないとのことでした。
面白いなと思ったのは、天敵に優しい殺虫剤の使用でカブリダニを温存してハダニを防除すると、今度はハダニ以外の害虫(サビダニ類とカイガラムシ類)の発生が観察されたということで、天敵による害虫防除の宿命を示唆していました。











 
2題目は、徳島県立農林水産総合技術支援センターの中野昭雄博士による「徳島県内モモ産地におけるクビアカツヤカミキリの被害拡大とその対策について」と題した講演でした。侵入害虫のクビアカツヤカミキリは最近分布が拡大しつあつあり、サクラの被害で注目を集めていますが、モモ、ウメ、スモモ、アンズなどの害虫としても重要です。中野博士らの取り組みのユニークな点は、県職員でありながら、県から配分される予算以外に、募金活動をして500万円を超える防除対策費を確保したということです。それによってボランティアに成虫捕獲プロジェクトに参加してもらって、成虫1頭500円で購入することが可能になったとのことでした。
防除対策としても、各種殺虫剤の幼虫潜入孔への噴霧・注入、ネットによる羽化成虫の拡散防止、バイオリサマダラ(カミキリムシに対する病原微生物)、殺虫剤の樹幹注入、樹皮へのコーティング剤施用、などいろいろな方法を試験していました。
最後に、果樹は農業の一部ですが、サクラは国土交通省や環境省や文部科学省など複数の機関が関わっていて、連携がないという縦割り行政の問題点を指摘していました。