2010年7月19日月曜日

今朝の朝日新聞には、第1面にルポにっぽん「弁護士になったけど」という大きな見出しの記事がありました。新人弁護士が、食費節約のために、毎朝実家の母親に二つ握ってもらったおにぎりと、家のお茶を入れてきたペットボトルを傾け胃に流し込んで昼ご飯にしているという話に始まり、経済的にいかに苦しいかが紹介してありました。記事は2面に続き、もがく「法曹の卵」というまたまた大きな見出しで、結局、法科大学院乱立が弁護士の過当競争と質の低い学生をもたらした、と結んでありました。それぞれ果たす役割が違うだけで、職業に貴賎はない筈ですが、アメリカでも医師と弁護士は最もなるのが難しく、最も尊敬を集める職業とされています。日本でもほぼ同じような状況でしょうか。市橋君の弁護を職業的な正義感から無報酬で引き受けて下さっている弁護団の経済状況については全くわかりませんが、少しでも弁護費用の足しになるように、引続き支援金のご協力をお願い出来れば幸いです。

昨日は、千葉大学時代の私の研究室を専攻して博士号を取得した駒形 修君(現在は国立感染症研究所で感染症を媒介する衛生害虫の解毒酵素の遺伝子の分子生物学的研究に従事)を誘って、私たちが長年水田農薬の環境動態と生態影響を研究するフィールドとして使ってきた山田町(現在は合併によって香取市山田区)と、茨城県北浦に行ってきました。山田町も北浦も成田空港の北方に位置し、各々松戸から車で片道2時間くらいの距離です。私が車を運転して、学生と一緒に毎週(農薬が散布される時期は週に何日も)一日がかりで出かけて、水や底質(川底の土)の農薬濃度を分析したり、ヘリコプターで散布される時は気中濃度や落下量を測定したり、水を採取してきて実験室内で毒性試験をしたり、川の中の水生生物の相対密度を調査したりしました。こういう調査では、地形や環境条件が全く同じ対照区(農薬無散布区)がとれませんので、結局、同じ場所で散布の前と後を経時的に調査して比較するしかありません。それを何年間にもわたって継続して、農薬の影響を考察します。その結果、この地域に生息していた絶滅危惧種のメダカやホトケドジョウも含めて、農薬は生態系に受け入れ不可能な悪影響は及ぼしていないということがわかりました。農薬の種類によっては、一部の生物(例えばアメリカザリガニ)に影響を及ぼす場合もありましたが、それも一時的変化に過ぎず、時間の経過とともに回復し、翌年には元に戻っていました。

天気に恵まれましたので写真を何枚か撮ってきました。神生(カンノウ)と呼ばれる地区は小高い森に囲まれた150haくらいの水田で、真中を仁良川(ニラガワ)と呼ばれる小さな川が流れています。昨日はまるで緑のカーペットのように水田が鮮やかでした。その水は江戸時代に造成された橘堰(タチバナゼキ)に溜められて、下流の田部(タベ)地区の水田の用水として使われます。橘堰の湖面は、菱(ヒシ)という植物が繁茂していました。引っ張りあげると、菱形をした固い実がでてきます。下流の田部地区の水田は1,000haくらいはある広大な水田ですが、1本の小さな水路だけは湧水のために冬でも水が枯れませんので、毎年農薬が空から散布される直下にありますが、メダカが生息しています。ことしも幅20~30cm、水深3~5cmくらいの小さな流れにメダカの群れがたくさん泳いでいました。穂が出始めた稲は、まるで水面が風で波打っているようで見事でした。
普段は忘れていますが、農業は単に食料を生産してくれるだけでなく、こういう美しい景観は私たちの心に癒しも与えてくれているのだと思います。