2011年12月7日水曜日

鳥取県米子市のJA鳥取西部本所で開催された第17回「くすの木会」で講演「残留農薬の安全性-ポジティブリスト制度ならびにTPPに関連して」をしました。

農薬の流通には、主として「系統」と呼ばれる「メーカー→全農→(各県の経済連)→JA(農協)→農家」という流れと、「商系」と呼ばれる「メーカー→農薬卸商→農業資材店(特約店)→農家」という流れの2つがありますが、地域によってはこれが変形して、「メーカー→農薬卸商→JA(農協)→農家」という流れになっているところがあります。通常は、農協の上部組織/全国組織が全農(全国農業協同組合連合会)ですから、農協は農家に販売する農薬は全農経由で仕入れる筈ですが、地域によっては地元密着の農薬卸商の方が中央の全農よりもきめ細かなサービスをしてくれたり、便宜を図ってくれる場合は、一部を農薬卸商から仕入れるというところが出てきます。「くすの木会」というのは、本来は農薬流通のライバル関係にあるJA(農協)と農薬卸商が地域の農家の病害虫・雑草問題や、種苗の問題や、それらに対応できる新製品などについて意見交換をする会として17年前(?)に発足したようです。今回は、私を呼んで残留農薬の安全性について講演してほしいという依頼があったのですが、特に今話題のTPP(環太平洋経済連携協定)との関係についても私の意見を聞きたいという要望が出されていました。

TPPについては国会議員の間でも賛否が真っ二つに分かれていて、農業関係者はそろって絶対反対の運動を展開していますので、会場となったJA(農協)の建物の壁にもTPP反対のポスターがずらっと貼られている中でこの話題について話をするのは若干緊張しました。下手な話をすれば、会場から生きて出られないかもというのは大げさですが、そんな無言の雰囲気も感じました。しかし、私は現在の日本の国産農産物や、アメリカや中国から輸入される農産物に含まれる残留農薬の安全性に問題はないという事実を科学的データで説明し、従って残留農薬によって食の安全が損なわれるからTPP反対ということはできないという考えを述べました。TPPに関する議論を見ていますと、明治維新の前に黒船襲来をきっかけに佐幕(さばく)か勤王(きんのう)か、攘夷(じょうい)か開国かで国論が二分された様子に似ています。今必要なのは絶対反対か賛成かの教条主義的な議論ではなく、資源小国の日本は原料を輸入して製品を輸出する貿易立国しかないという厳しい現実と、世界は食料不足(飢餓)の時代に向かいつつあるという歴史的流れの中で国内の食料生産能力を確保することは絶対に必要、という2つの要求をどうやって満たすかということを国民全体の知恵を絞って考え出すことの筈だという私の考えを述べました 。

閉会後の情報交換会では多くの方々と名刺交換をし、新しい人々との出会いがありましたが、JA鳥取西傘下の農業生産者約1,000人が集まる会での講演を打診されました。農家にも農薬についてきちんと勉強して、自信と誇りを持ってほしいということでしょう。鳥取県の農業は多品目の野菜や果樹(梨)が中心のようですが、実際に生産に携わっている農家と直接会えるのは楽しみですので、呼んでいただければいつでも喜んできますと答えておきました。