2012年3月29日木曜日

NIEHS(National Institute of Environmental Health Sciences 米国環境健康科学研究所)に勤務しているアメリカ人の友人から、いわゆる化学物質過敏症に似た症状に関する興味深い情報が送ってきました。
1つは、The New York Times Magazine on line http://www.nytimes.com/2012/03/11/magazine/teenage-girls-twitching-le-roy.html?_r=1&ref=magazine&pagewanted=all
にSusan Dominus という女性記者が2012年3月7日に報告したWhat Happened to the Girls in Le Roy(ルロイの少女たちに何が起こったのか)と題した記事です。
もう1つは、NPR(National Public Radio 公共ラジオ局) http://www.npr.org/2012/03/10/148372536/the-curious-case-of-teen-tics-in-le-roy-n-y
のAll Things Considered というラジオ番組(6分45秒)でホスト役のGuy Raz 氏が上記のDominus 記者にインタビューし、The Curious Case of Teen Tics in Le Roy, N.Y.(ニューヨーク州ルロイの十代の少女に起こった不思議な痙攣症状)と題して2012年3月10日に放送した内容の筆記録です。

両方とも同じ事件を扱っているのですが、ニューヨークの西部の人口7,500人ほどのルロイと呼ばれる小さな町の学校で十代の女子生徒たちに起こった原因不明の痙攣(けいれん)症状を扱っています。チアリーディングチームに属する一人の女子生徒が、昼寝の後にあごが震えたり、顔が痙攣する症状を経験し、それが同じ学校に通う十代の女子生徒18人に次々に広がったという事件です。学校の水や運動場の土に何か有毒な化学物質が含まれているのではないかと疑われて、学校であらゆる可能性について調査・分析したにもかかわらず、何も異常を発見できず原因を特定できませんでした。この事件はCNN(Cable News Network、アメリカのケーブルテレビ向けのニュース専門放送局)テレビやフェイスブックなどでも注目を浴びて取り上げられましたが、結局、神経科医の診断はConversion Disorder(ストレスの感情が転換されて肉体的症状となって現れる病気)と、多くの女子生徒で同様の症状が見られたことからMass Psychogenic Illness(大量発症心因性体調不良、別名Mass Hysteria 流行性集団ヒステリー)であるということになりました。

これは、私が本山直樹Website http://sites.google.com/site/naokimotoyama で何回も指摘しているように  [例えば、http://sites.google.com/site/naokimotoyama/old/2009/090827 過去の記事#5 薬剤散布による健康影響の根拠として放送された映像の検証(2009年8月27日)] 、実際には因果関係はないにもかかわらず、松くい虫防除で散布された薬剤で体調が悪化したと思い込んで健康被害を訴えるのとよく似た現象です。ただそれだけなら個人の問題ですが、それがメディアに大きく取り上げられて政治的な圧力になって薬剤散布が中止に追い込まれると、せっかく何十年もかかって育成してきた松林が松枯れで保安林としての機能を果たさなくなって、地域住民の生存環境が危険にさらされることになり、国民に大きな被害をもたらします。

The New York Times Magazine の記事は問題をさらに深く掘り下げて、環境に問題がないことを認識すれば症状は急速に改善するが、何が原因かわからないからと無意味な毒性物質の探索にお金をかけたりすると不安感が増大し、かえって長期的な心理学的問題の発展(つまり化学物質過敏症=化学物質恐怖症に罹って長期間苦しむ)につながることを指摘しています。この記者は、こういう症状が発症する医学的メカニズムや、Mass Psychogenic Illness についても、わかっていることとわかっていないことをちゃんと区別して紹介しています。Susan Dominus という女性がどういうバックグランドを持っている記者かわかりませんが、難しい問題をあくまで科学的に報告した大変すばらしい記事だと思います。

今日は上記の記事と、松がれのメカニズムに関する論文を読むのに時間を使いたかったので、江戸川堤防を6Km だけ走ってきました。すっかり春で、斜面に寝転がってひばりのさえずりを聞きながら青空を眺めている人もいました。