2012年4月19日木曜日

市橋君に面会に行ってきました。いつものように手続きをして、10階に昇って指示された面会室で待っているとすぐ市橋君が刑務官と一緒に入ってきました。だんだん顔色が普通になって、表情も特別神経質ではなく普通の表情になってきたと感じました。いつものように、元気だったかと訊いたら、はいと答えました。昨日(私が日にちを勘違いして)山本弁護士が来てくれたろうと訊いたら、困惑した顔をしていいえ昨日ではありませんと答えたので、じゃいつだっかのかと訊いたら、この頃は曜日もわからなくなりましたのでと言って思い出そうとしていました。あっそうか、昨日菅野弁護士に電話をしたら月曜に弁護団会議をしたとおっしゃっていたのでその後の筈だがと言ったら、そうです火曜日でしたと言いました。

それで、上告(控訴ではなくて上告という言葉が正しいそうだという説明をして)については、その後考えてどうすることにしたのかと訊きました。少しためらいがちに、上告しませんと答えました。私が、弁護団会議では上告しないということになったそうだが、君は事実を正直に話したのに信用できないとして否定され虚偽の弁解と決めつけられたのだったら、最後まで主張した方がいいのじゃないかと言ったら、でも裁判所がああいう判断をしたのですからと答えました。私がさらに、昨日のブログで書いたように、検察が証拠を隠蔽したり改ざんした事例があることに言及したら、自分の場合は有罪か無罪かの問題ではなく、リンゼイさんは自分のせいで亡くなってもう戻らないのですからと言いました。私は、それはそうだけど、無期懲役刑か有期刑かという量刑が関わる問題だから、ちゃんと事実は事実として主張したらどうかと言いました。市橋君は、でも裁判でああいう判決になったのだからどうしようもないと言ったので、私は、裁判と言えども絶対的なものではなく間違いもあるから3回チャンスが与えられているのじゃないかと言って、昨日のブログで書いた裁判官の中には安易に検察側の意見に同調する場合もあるようだよと言いました。
手記の印税を被害者遺族に提供しようとしたことを、君に悔恨がないことの証拠と決めつけたのは私だって絶対におかしいと思うよと言ってさらに強く上告を勧めました。今までの弁護団は上告しないそうだが、私の友人の弁護士に刑事裁判のプロ中のプロとして尊敬されているK弁護士を紹介してもらったことと、君の上告を担当してもらえないか打診していることと、判決謄本を検討したいと言われていることを伝えました。それも君が上告を希望しなければ先には進めないのだということを伝えました。
それでも市橋君は、今まで本当にご迷惑をおかけしました、ありがとうございました、上告はしませんので、自分のことはもう放念して下さいと言いました。私は迷惑なんて全くかかってないよと答えました。
後は水掛け論のように同じことの繰り返しになりましたので、私はまだ来週の水曜まで時間があるから、それまでもう一度よく考えなさいと言ってこの議論を止めました。しかし、市橋君の上告しないという覚悟は固いように見えました。

市橋君は、前回先生が言っていた白い花が何かと考えていましたが、もしかしたらモクレンの白い花のハクモクレンですかと訊きました。実は前回の面会の時に黄色い花がレンギョウというのは言えたのですが、白い小さな花の名前を度忘れして言えなかったのですが、今日は思い出してあれはユキヤナギだったと答えました。ハクモクレンの花は大きいけど、ユキヤナギは小さい花がたくさん付いているだろうと言いました。市橋君はこの頃は何月かということも感覚がなくなって、今は4月だと思い出して4月に咲く白い花は何だろうとしきりに考えていたと言いました。独居房にいて、外の景色も見えず、人との接触もなく過ごしていると、何曜日かも何月かもわからなくなって感覚がなくなってしまうのでしょう。そして、気になったちょっとしたことがいつまでも気になるのかもしれません。

今日の市橋君は紺色の太い毛糸で編んだ丸首のセーターを着ていました。私が、あれっ、それはまた別のセーターかと訊いたら、前のと同じです、ただ今日は上着を着ていないだけですと答えました。今日は後で支援者の〇〇さんが差し入れに来られると言っていたよと伝えました。
刑が確定して受刑するようになっても、支援者は君のことを支援し続けたいと言っているし、私も月に一度くらいは面会に来ようと思っているから(私を更生に必要な面会人として申請してほしいという意思表示の意味を込めて)と伝えました。しかし、市橋君はもうこのまま受刑する覚悟を固めて、誰にも知られない刑務所で死ぬまで黙々と罪を償おうとしているような印象を受けました。山本弁護士がこの子はストイックな生き方をしようとしているのではないか、とおっしゃったことを思い出しました。逃走中にいずれはどこかで野垂れ死にするしかないと考えていたり、身柄を拘束されてからは取り調べ中に絶食を続けて何も話さずにそのまま死のうと思ったり、市橋君という人間は一度思い込んだらそれをやり通そうという強情な性格を持っているのかもしれません。以前、自分は単純な刑務作業の繰り返しでも大丈夫ですと言ったのを思い出しました。

刑務官は時間がきたことを身振りで示しましたが、市橋君が話している途中だったのを止めさせずに、話が終わるまで待ってくれました。私が来週もう一回来るからそれまで上告するかどうかもう一度考えておくようにと言って面会室を出たら、市橋君はいつものように深々と頭を下げてありがとうございましたと言ってくれました。
面会を終わって拘置所の外に出たら、ちょうど差し入れ予定の支援者の〇〇さんから電話がありました。綾瀬駅で待っていていただいて、近くでお茶をしながら差し入れに行かれる前の少しの時間お話をしました。今日の市橋君との面会の様子をお話しましたら、市橋君が上告をしない可能性が高いということにショックを受けたようでした。