2012年11月18日日曜日

日本環境動物昆虫学会第24回大会は、17日は名古屋大学東山キャンパスの環境総合館で、18日は東山キャンパスの停電のため予定を変更して大幸キャンパスの医学部保健学科本館で行われました。大幸キャンパスは、野球の中日ドラゴンズの本拠地名古屋ドームのすぐ近くにありました。この学会は元々は今から24年前にシロアリのような家屋害虫の生態や防除のような生活環境の動物・昆虫の研究分野を中心に関西で発足した小さな学会ですが、現在では範囲が広がり、自然環境や生物多様性の保全のような研究分野も含まれるようになりました。

発表件数が少ない割に、私にとっては興味深い研究発表がいくつかありました。吉村 剛教授(京大生存研)の「インドネシア・西カリマンタン州のいくつかのランドスケープにおけるシロアリ相」は、シロアリに関する学問の奥の深さを認識させられました。シロアリというのは木造家屋を倒壊させる害虫としか考えていませんでしたが、実は食性について木材食性、菌食性(養菌性)、土壌食性があって、森林の生態系にとって重要な役割を果たしているとのこと。インドネシアのカリマンタン州では、経済価値のあるオイルパーム(油ヤシ)の植林の進行に伴ってシロアリの種構成の単純化が起こりつつあるとのことで、ブラジルのアマゾンの開発も同じですが、そこに住んでいる人々にとって重要な経済的発展は生態系のバランスを崩壊させて生物多様性の貧弱化をもたらすという矛盾を抱えているということを考えさせられました。

「どうつなげる生物多様性」というテーマのシンポジウムでの石井 実教授(大阪府立大学)の基調講演「人がかかわってきた自然:私たちの課題と願望」はさすがでしたが、矢部 隆教授(愛知学泉大学)の「カメから見た水辺の生物多様性」も話術の巧みさもあって惹きこまれました。両方とも生物多様性が失われる要因の一つとして水質の悪化を挙げていましたが、今まで水質悪化の主な原因として検証なしに当然のように言われ続けてきた化学肥料や農薬汚染については、最近は改善されているという認識で共通していました。

プログラムには載っていなかった佐藤勝彦氏(愛知県猟友会会長)の講演は異色でしたが、愛知県における昭和38年(1963年)から平成22年(2010年)までの有害鳥獣捕獲・駆除数の年次統計の資料を配布されました。それを見ると、昭和38年のイノシシ、シカ、ニホンザルの捕獲・駆除数は各々723頭、20頭、0頭だったのが、平成22年には8,713頭、1,470頭、269頭に激増していることを示しています。人間の生活圏が野生生物の生息域に接近してきたこと以外に、捕食者の欠如など生態系のバランスが崩れていることもこれらの動物の増え過ぎによる害獣化に貢献しているのでしょう。佐藤氏は猟友会員の高齢化と会員数の極端な減少によって、将来有害鳥獣の駆除が困難になる可能性があると指摘していました。
ちなみに、捕獲・駆除した動物はどう処分するのかという私の質問に対しては、シカの肉はいつ獲ったものでも食べられるが、イノシシの場合は11月以降に獲ったものは美味しいが、夏場に獲ったものはまずくて食べられないので生ごみになってしまうとのことでした。