2012年12月10日月曜日

私の千葉大学勤務時代に、文部科学省の国費留学生として来日して私の研究室で研究をして博士号を取得したHenry(ヘンリー) O-Sintim さんからメールが届きました。ガーナに帰国して大学の教員をしていますが、学会誌に投稿して発表した論文(私も共著者になっている)が、同様にパキスタンから国費留学生として私の研究室に来て博士号を取得して帰国したTariq(タリク) Mohamood さんの目に留まったらしく、私のメールアドレスを知りたいという問い合わせが届いたとのことでした。

私もTariq さんの消息を知りたいと思っていたところでしたので、早速こちらの近況を書いてメールを送ったら、すぐ返事がきました。彼はパキスタンに帰国して、NARC(National Agricultural Research Center 国立農業研究センター)の研究者になり、現在はIPM(Integrated Pest Management 総合的有害生物管理)プロジェクトのリーダーをしているとのことでした。現在55才になり、子供は娘4人と息子2人だが、長女はすでに結婚して夫と一緒にBahrain(バーレーン:ペルシャ湾の国)に住んでいるとのこと。2018年には60才で退職予定と書いてありましたので、パキスタンの国立研究所では日本と同じで一定の年齢に達したら強制的に定年退職させられるのかもしれません。

Tariq さんは私が受け入れた初めてのイスラム教徒の留学生でしたので、いろいろ初体験することがたくさんあった当時を思い出します。実験室で一定の時間になると毎日何回か床に絨毯(じゅうたん)を敷いて頭を床に付けてお祈りをする時は、どう対応していいか戸惑いました。インド人の著者が書いたイスラム教を冒涜する本を日本語に翻訳した筑波大学の先生が暗殺された時は、犯人が残した靴跡から中国の北京で売っている靴と同定され、Tariq さんは北京経由で一時帰国したことがあったので、犯人の可能性はないかと疑われて刑事が私の研究室に訪ねてきたこともありました。よく報道写真で見たアフガニスタンのタリバーン兵士のようにモジャモジャのあごひげを生やし、独特の帽子を被って、白い布でできたマントみたいな衣服を着て、大学近くの一間だけの安アパートに住んで、4年間くらいわき目も振らずに研究に専念していました。電気生理学的な手法を使って、当時日本で発見されて間もなかったチャバネゴキブリとイエバエのピレスロイド剤(殺虫剤)抵抗性は、作用点である神経の感受性の低下が主要メカニズムであることを明らかにするという素晴らしい研究をしました。私が大学教員として研究指導した百何十名かの学生の中で、人間的にも研究者としても最も優秀な一人でした。
こういうよい思い出を残してくれた元学生たちに出会えたことが、私の大学教員としての人生に充実感・満足感を与えてくれています。

あれから確か25年くらいが経った筈ですが、こうして再び偶然お互いの消息がわかり、連絡が取り合えるようになったことは嬉しいことです。まるで、予期していなかったクリスマスプレゼントが届いたような気分です。