2013年10月11日金曜日

ノースカロライナ州立大学昆虫学科のCoby Schal教授と朝9時に会う約束がありましたので、十分時間に間に合うように出かけたのですが、以前は大学の前の道路や学内にあったパーキングメーターがなくなっていたのでウロウロして結局大学の前の銀行の駐車場に車を置いて、歩いて昆虫学科の入っている建物に行きました。

建物内の研究室の配置も記憶と違っていてウロウロしていたら大学院生らしい男性が親切にSchal教授の研究室まで連れて行ってくれました。約束の時間を5分過ぎていましたが、再会(何年か前に会ったことがある)の挨拶をして早速トコジラミに関する話に入りました。私が、国立感染症研究所の研究者が国際会議でプレゼンテーションをしたスライドをプリントして持参していたのでそれを見せながら日本のトコジラミの殺虫剤抵抗性の状況とそのメカニズムを分子生物学的に解析した結果を説明しました。Schal教授は大変素晴らしい研究だからすぐ論文として印刷公表すべきだということと、筆頭著者のK博士は私の研究室の卒業生だと紹介したら、是非自分に連絡をするように伝えてほしいと頼まれました。K博士には自分の研究室を訪ねてほしいし、将来共同研究プロジェクトもやりたいと言われたので、日本に帰ったらすぐ伝えますと答えておきました。Schal教授の方ではアメリカ全土だけでなく、世界各地のトコジラミを調査対象にしていて、抵抗性や遺伝子解析の情報をプレゼンテーションしたスライドをパソコンの画面で見せてくれました。 大勢のポストドク(博士研究員)と大学院生をかかえて精力的に研究活動をしていますが、京都大学の元農薬研究施設で博士研究員をされたことのあるポストドクの勝又綾子博士を紹介されました。ゴキブリの毒餌にはグルコースが誘引物質として入れてあるのですが、毒餌を食べないという行動抵抗性を示すゴキブリの味覚反応を調べると、甘味を苦味として感じるようになっていたということを明らかにして学術誌Scienceに論文が掲載された研究者です。その時のゴキブリの口器のカラー写真はウェブ上で全世界に公開されましたので、私も見たことがありました。Schal教授は、彼女は自分が今まで一緒に研究をした約40人のポストドク中で最も優秀な研究者だと高く評価していました。

トコジラミの飼育状況も見せてもらいました。直径4cm、高さ5cmくらいの円筒状の小さな容器で飼育していて、餌は購入するウサギの血液を与えていました。37℃の恒温水を循環する小さなガラス容器に血液を入れてパラフィルムで蓋をし、飼育容器の上端(目の細かい網)を接続すると5分くらいで吸血が終わるそうです。効率化のためにそれが6連でできるようになっていました。日本ではマウスを使って吸血させている研究室もあるがと話したら、アメリカでは動物愛護団体が過激で押しかけられて破壊的行動をされると困るのでウサギの血液を購入して与えているそうです。ある時は外国産のトコジラミにウサギの血液を与えたが拒否されたので、自分の腕に飼育容器を当てて吸血させ、その後ウサギの血液に戻したがやはり駄目で、もう一度自分の血液を与えて、次に生きている豚を吸血させてみたがやはり拒否され、結局人間の血液以外外は駄目でこのコロニーは絶えてしまったとのことでした。テレビの取材の時には自分の腕から吸血させてアレルギー反応で真っ赤に腫上がるところを見せるそうですが、かゆみ止めに抗ヒスタミン剤を服用するそうです。 私が訓練された探知犬がトコジラミを検出したというマンションの部屋で炭酸ガストラップ、熱トラップ、最後には私自身がトラップになって捕獲を試みたが駄目だったという話をし、日本の研究者のためにアメリカのトコジラミを持って帰りたいのだがと話してみましたら、トコジラミで商売をする人(防除業者)には販売するが、研究目的の人には無料で差し上げますと言われてニュージャージー(?)で何年か前に捕獲したコロニーと最近大学の近くで捕獲したコロニーを日本から持参した密閉容器(ガラスバイアル)に産卵する雌成虫を中心に50頭くらい入れてくれました。今回の私のアメリカ旅行の最大の収穫です。日本に帰ったら早速日本環境衛生センターと国立感染症研究所のトコジラミ研究者に連絡をとって提供しようと思っています。

Schal教授の研究室で飼育しているトコジラミを民間企業に販売するのは、殺虫剤のスクリーニングをするのが目的ではなく、防除業者が犬(たいていビーグル犬)を訓練するのが目的だそうです。トコジラミの臭いを嗅がせて覚えさせ、訓練で正しく見分けた時は餌を与えたり頭をなでて褒めてやるのだそうです。訓練された犬は生きているトコジラミのいる場所の前に来ると、座って片足を上げてここにいると知らせて褒美の餌をもらおうとするのだそうです。ただ難しいのは一度訓練すれば終わりではなく、臭いを忘れないように訓練は常に繰り返さないと駄目だということのようです。犬が間違うこともあるので、厳密には1頭の犬が反応を示したら、2頭目の犬を使って同じ場所で反応を示すか確認することが必要だとのことです。どれくらい正確に探知できるかある人が試験をしてみたら99%の正解率だったという報告があるが、それは優秀な犬だけを集めて試験をしたからで、無作為に集めた探知犬で試験をしたら約50%の正解率だったという報告もあるので、実際には個体差があって50%は間違えることもあるということのようです。 今日は私が抱いていた疑問の多くに回答が得られて、収穫大でした。

夕方はマージーさんがモーテルに来て夕食を作り始めましたが、私は運動不足だからと言ってLake Johnsonに行って1周を40分でジョギングしてきました。帰ってきてシャワーを浴びて、一緒に食事をしました。いつものことですが、食後の満腹感で私が居眠りをし始めたら、明日は冷蔵庫の中を空にしなければと言って自宅に帰りました。

東京農業大学総合研究所研究会生物的防除部会のW会長からメールがあって、いつの間にか11月20日の例会での講演を依頼されて了承してしまいました。まだ先のことですから何の話をするか構想を練る時間的ゆとりがあります。 今朝は時間を見計らって(日本時間で金曜の夜)日本の妻に電話をして、お互いに異常がないことを確認しました。私の世話をする必要がないので羽を伸ばして友達と会ったりしているようです。私も少しずつ帰国の準備をしなければなりませんので、明日は妻に頼まれた買い物などをするつもりです。