2014年11月21日金曜日

宿泊した焼津市のホテルアンピアン松風閣は海に面した崖っぷちの風光明媚な場所に建てられていて、大浴場の温泉に浸かりながら大きなガラス窓から広々とした海と山の景色が見えました。
2日目のプログラムは、元場一彦氏(日本農薬株式会社)による「農薬の鳥類へのリスクとその評価・管理手法」、對馬誠也氏((独)農業環境技術研究所)による「土壌および葉面の微生物フローラと病害防除への活用について」、外側正之氏(静岡県農林技術研究所茶業研究センター)による「農薬が茶園の生物相に及ぼす影響(静岡県の事例)」、という3題の講演が行われました。2日目の講演も素晴らしい内容で学ぶところ大でした。
その後約1時間の総合討論を経て、希望者はチャーターしたバスに乗ってエクスカーションに出かけました。

今回の研究会は、全体のテーマが「陸域生態系と農薬」ということで、水域生態系ではなく陸域生態系に焦点が絞られていましたので、野鳥に対する影響や、絶滅危惧植物に対する影響や、植物体上や土壌中の微生物相に対する影響などが取り上げられましたが、一番のキーポイントは生物多様性に対する影響だったと思います。
生物多様性は、1日目の池田氏の講演で述べられたように、1992年にリオデジャネイロで開催された「環境と開発に関する国際連合会議(地球サミット)において生物多様性条約が採択され、わが国は翌年にこの条約を締結、その後2010年に名古屋で開催された第10回生物多様性条約締約国会議(CBD-COP19)において、愛知目標(生物多様性に関する20項目の達成目標)が採択され、その目標7として「2020年までに、農業、養殖業、林業が行われる地域が、生物多様性の保全が持続的に管理される」ことが盛り込まれた、ことが根拠となっています。このような国際的動向を受けて、日本の農業も今日では農業生産と生物多様性保全の両立を図ることが求められる時代を迎えたとのことです。
農林水産省は上記の国際状況(いわば現代の黒船)を錦(にしき)の御旗(みはた)に財務省から予算を獲得し、所管する(独)農業環境技術研究所のような研究機関にそういう研究をするように要求し、それを受けて都道府県の農業関係試験・研究機関にもそれに沿った研究をさせている、という状況のようです。

世界的には人口増加が確実に予測されていて食料増産は喫緊(きっきん)の重要課題である一方で、開発による生物の生息環境の減少や悪化は急速に進行しているという矛盾をどう解決するかというのは難しい問題です。お米の収量一つを例にとっても、記録の残っている平安初期の820年には1.8俵(1俵=60Kg)/10アール(1アール=1000m2)だったものが、科学技術の進歩で平成20年の2008年には9.1俵/10アールと約5倍増加しています。無農薬栽培や有機栽培水田では、農薬を使った慣行栽培水田に比べて生物多様性がより豊かになり、例え収穫されるお米の収量や品質が多少低下しても、高価格で販売できるので農家の収入にとっては必ずしもマイナスにはならない、という説明がされます。1日目に講演された田中氏は、有機栽培水田のお米の収量と品質は慣行栽培水田に比べてどの程度ですかという私の質問に対して、調査対象水田の農家に聞き取り調査をしたが慣行栽培水田と大差はなかったと回答されましたが、定量的な数字や統計的な有意差検定の説明はありませんでした。
そもそも水田のように、農家ができるだけ良品質のお米をできるだけ多量に収穫するために耕作している食料工場で、何故収量や品質を犠牲にしてまで生物多様性を維持する場としなければならないかという基本的な矛盾があるように思います。地方に行けば、過疎化が進んで耕作放棄地が目立ちますし、都会に行けば開発が進んで建物や道路ばかりで自然が全くない場所がたくさん見られる状況下で、農業にばかり生物多様性保全を押しつけようとする政策はどこか違うんではないかという気がした研究会でした。

エクスカーションでは清水港からベイクルーズの船に乗って湾内を1周しました。幸い晴天に恵まれて富士山の雄大な姿を眺められ大満足でした。三保の松原の羽衣の松(3代目)も見たかったのですが、残念ながら湾内からは三保の松原の裏側の景色だけしか見えませんでした。その後バスで金谷市牧之原にある静岡県農林技術研究所茶業研究センターに移動し、お茶に関する説明を受け、製茶工場の見学をしました。
帰りは予定通り午後5時に静岡駅で解散になり、新幹線で帰ってきました。