2015年3月6日金曜日

東京農業大学総合研究所研究会農薬部会の第97回セミナーがありましたので、農大桜丘キャンパスに少し早目に行ってちょっとキャンパス内を歩いてみました。以前あった古い教室の建物を取り壊した跡地は、芝生を貼った広い広場になっていました。
桜丘アリーナと呼ばれる大きな体育館の入り口には、来年3月の卒業予定学生を対象の就職案内の看板が立っていて、ちょうど企業セミナーが行われていました。
グランドでは、陸上競技部の学生が数人でダッシュの練習を繰り返していました。しばらく立ち止まって眺めましたが、自分の年齢と体調を忘れて、自分もあんな風に走りたいなあと思ってしまいました。

セミナーはいつものように2題の講演がありました。石原産業株式会社中央研究所生物科学研究室の佃 晋太郎氏は、SDHI(Succinate DeHydrogenase Inhibitorsコハク酸脱水素酵素阻害剤)殺菌剤の総括と同社が開発した新規殺菌剤 isofetamid(日本における商品名ケンジャ)の諸性質について紹介しました。SDHI殺菌剤というのは植物病原菌(担子菌類やイネ紋枯病菌、子嚢菌類や不完全菌類など)のミトコンドリア電子伝達系を阻害する殺菌剤で、1980年代から第1世代、第2世代、第3世代といわれる多くの重要な殺菌剤が開発され実用化されてきましたが、近年耐性菌も出現してきています。同社が新たに開発した isofetamid は、耐性菌にも効果が高く、第4世代とみなせる非常に有望な殺菌剤とのことです。不思議に思ったのは、日本で開発されたにもかかわらず、日本では2013年9月に農薬としての登録申請をして、約3年後の来年2016年に登録認可が得られる予定なのに対して、アメリカでは先に登録申請してすでに登録認可になって販売されているということです。アメリカでは、農薬の登録審査はEPA(Environmental Protection Agency 環境保護庁)だけが担当するのに対して、日本では農水省、環境省、厚生労働省、消費者庁、内閣府食品安全委員会が関与していますので、縦割り行政の弊害で無駄に余分な時間がかかっていなければいいのですが・・。

2番目の講演は、元中央農業総合研究センターの鈴木芳人博士が、殺虫剤抵抗性管理の常識を覆す理論と実証-実効性のある技術開発の原点-という演題で、抵抗性遺伝子の薬剤散布による選択をシミュレーションで予測したところ、今まで抵抗性対策として常識化していたIPM(Integrated Pest Management 総合的有害生物管理)と交差抵抗性のない殺虫剤のローテーション施用(輪用)は実は効果がないという結果になったという内容でした。以前他のシンポジウムで講演されたのとほぼ同じ内容ですが、より分かり易くより丁寧に紹介しました。今までの常識に挑戦する画期的な主張ですが、それでは抵抗性発達を回避するにはどうしたらよいかという代案がないのは残念でした。それと以前にも指摘しましたが、シミュレーションに使ったモデルには、抵抗性遺伝子の環境に対する適応度(フィットネス)のコストが含まれていないことも、問題点のひとつとして指摘されました。面白かったのは、参加者の中に元静岡県農業試験場や防除所に長年勤務されたM博士がおられて、柑橘のミカンハダニはかつては抵抗性のために難防除害虫だったが、三ヶ日町(現在は浜松市)の柑橘園では発生初期にスポット散布をしたり、散布後に散布むらで残存した個体群にはいわゆる「追い撒(ま)き」をすることで、抵抗性を克服した実績を紹介されたことです。つまり、抵抗性対策は現場に答えがあるので、現場をよく見てほしいという提案です。私たちも確かもう30年ぐらい前のことですが、千葉県柏市のチンゲンサイという中国野菜の栽培団地で、抵抗性のために難防除害虫だったコナガという害虫を殺虫剤のローテーション施用で実際に解決した実績があります。
抵抗性管理を考えるには、やはり理論的な解析と現場の経験の両方が重要だということを示唆しています。

セミナー終了後は講演者を囲んでの懇親会があり、その後でさらに何人かはいつものように農薬部会の前会長の山本 出先生のご自宅にお邪魔して二次会が行われました。