2015年5月22日金曜日

先日、東京農業大学総合研究所研究会農薬部会宛に質問を送ってこられた学外者に回答(5月19日のブログに掲載)をしましたら、お礼のメールと追加の質問が届きましたので、再度以下のような回答をしておきました。追加質問の趣旨は、(1)農薬部会セミナーのレジュメは一般の人(非会員)でも見られるのか、(2)庭や街路の樹木に散布された殺虫剤は有効成分が空気中に揮発していて、そのために虫も来ないようになっているようだが、空気中に揮発しないものもあるのか、ということでした。

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〇〇〇〇様
農大総研研究会農薬部会のセミナーや講演会は会員限定の活動ですが、私が部会長になってからはできるだけオープンにして、非会員の参加も希望があれば認めるようにしています。ただし、活動は会員の会費で成り立っていますので不公平のないように非会員には参加費(レジュメなどの資料代を含んで)として毎回3,000円をお支払いただいています。昨年12月5日にネオニコチノイド殺虫剤とミツバチ影響、健康影響を主題にした第96回セミナーを開催した時は、反ネオニコチノイド活動をしているグリーンピース・ジャパンから3名の参加申し込みがありましたが、科学的な事実を勉強していただいて科学的な意見交換ができるように、参加費を払っていただいて参加していただきました。
レジュメについては、演者によって文章による簡単な講演要旨を提出される方と講演に使うパワーポイントスライドをそのまま印刷して提出される方がおられます。セミナーや講演会自体が会員限定の活動ですから、非会員に公開することは想定していませんが、私の手元にコピーが残っていて問題のないものについては、私的にお見せしても構わないのではと思っています。添付しました最近の演題リストの中で、何か特定の演者のレジュメにご興味がおありですか。
農薬の有効成分の蒸気圧によっては、揮発(大気への移行)のし易いもの、し難いもの、全くしないものがあります。例えば、有機リン殺虫剤のジクロルボス(DDVP)や多くのピレスロイド剤は蒸気圧が高く揮発し易いものですが、反対に分解され易いので残効性が短いという特徴があります。一方、多くのネオニコチノイド剤は蒸気圧が低いので、ほとんど揮発しません。例えば、アセタミプリド(製剤名は農業用殺虫剤はモスピラン、林業用殺虫剤はマツグリーン)は実験室内でロータリーエバポレーターの中で60℃に加熱して減圧条件にしても揮発しませんので、野外で散布された植物上から大気に移行することは考えられません。
ジクロルボスは揮発し易いという性質を利用して塩ビ板や犬猫の首輪に練りこんで、不快害虫防除や衛生害虫防除(これらは法律的には農薬ではありませんが)に使われています。ピレスロイド剤は比較的揮発し易いという性質と効果が速攻的という性質を利用して、蚊取り線香や液体蚊取り(これらも法律的には農薬ではありませんが)に使われています。ピレスロイド剤にはその他に、害虫に対する忌避効果もありますので、植物に散布後一定の期間は害虫を忌避する効果がある筈ですが、直射日光の当たる野外では持続期間は短い筈です。
庭や街路樹に殺虫剤を散布した場合の気中濃度(揮発による大気への移行)については、有効成分の蒸気圧、気温、日照、葉面温度、製剤(マイクロカプセル剤か乳剤かなど)などによって影響を受けます。私たち(本山と共同研究者)は松くい虫防除でマツに散布された殺虫剤の気中濃度を実際の大規模な松林だけでなく、実験圃場で苗木にモデル散布して経時的にモニタリングしたことがありますが、検出された気中濃度は産業衛生学会が設定した評価値以下で、苗木に近接した位置でも健康に影響を及ぼす閾値以下でした。また、一般に野外における気中濃度は時間経過とともに拡散と分解で急速に減衰して検出限界以下になります。
よく、食品残留農薬でも環境中農薬でも、検出されること=健康に悪影響と誤解されますが、ヒトを含めた生物への影響は(成分自体の毒性の強さと)暴露量(濃度×時間)で決まりますので、これは間違いです。
ご質問への答えになりましたでしょうか。
本山直樹
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昼休みに道場で筋力トレーニングをしてから、水元公園に行き1時間40分ウォーキングをしてきました。葛飾橋の鉄骨に空いている穴には、相変わらずムクドリの親が出たり入ったりして餌を運んで子育てをしていました。 
運動の後は、いつもの床屋に行って散髪してきました。
 
茨城県神栖市の海岸に一緒に行った樹木医のA氏から、彼が撮った写真が何枚か送ってきました。松くい虫被害木は、仕事を受注した造園会社によって伐倒されて矢田部地区と波崎地区の飛砂防備保安林沿いの道路脇に集積されていましたので、その中からマツノマダラカミキリができるだけたくさん寄生していて直径が細い丸太(その方が一定の飼育スペースの中で多数の個体を発生させられるので効率的)を61本選んで小型トラックに積んで運んできました。6個の網室(大きさは約1m×2m×1m)に約10本ずつ収納しましたので、これから9月の初旬頃までA氏が毎日チェックをして、羽化脱出してくるマツノマダラカミキリ成虫を見つけてアイスクリームカップでマツの当年枝を餌に与えて個体飼育します。発生数を毎日記録すると発生消長のデータが得られると同時に、マツの木に散布された殺虫剤の残効性を生物検定で調査する供試虫が得られます。

      (写真はクリックすると拡大できます)