2015年9月18日金曜日

東京農業大学総合研究所研究会農薬部会の第99回セミナーが世田谷キャンパスの「食と農の博物館」で開催されました。私が現在の農薬部会長ですので、講師の紹介と講演の座長をしました。今回は以下の2題の講演があり、いずれも大変素晴らしい内容でした。

「炭疽病菌エフェクターの網羅的検索とエフェクター阻害型農薬の開発」高野義孝准教授(京都大学大学院農学研究科植物病理学分野)
「遺伝子組換え農作物の現状と展望」田部井 豊博士(農業生物資源研究所機能性作物研究開発ユニット)

高野先生は新進気鋭の研究者という印象でした。いろいろな作物に病気を起こす炭疽病菌には胞子にメラニン色素を有する付着器があって、宿主植物のクチクラ層を貫通して細胞内に菌糸を進展して感染することから、メラニン合成阻害をすることで感染阻止を図るという目的で、病原体が宿主細胞内に分泌するエフェクターと呼ばれる蛋白質を検索し、その分泌を阻害する物質を探索する研究について紹介しました。非常に専門的で植物病理学の専門外の聴衆には難しい内容を、順序立ててわかり易く解説してくれました。最後の謝辞のスライドに共同研究者と研究費を提供している事業名が記載されていましたが、何億円もの競争的研究予算を獲得して実施されている最先端の研究ということがわかりました。

田部井博士は日本における遺伝子組換え作物研究の第一人者で、農水省(国立研究開発法人)の農業生物資源研究所勤務ということで、あちこちでよばれて講演をしたり、遺伝子組換え作物の安全性評価委員をしたりで超多忙な方です。今回のセミナーは聴衆が農薬分野の人たちが主でかならずしも遺伝子組換えには詳しくないということで、きわめて基礎的な背景から解説してくれました。
普段私たちが何気なく食べている農作物のほとんどが自然なものではなく、長年月をかけて人の手で改良されたものであることの証拠として示したトマト、ジャガイモ、トウモロコシの原種の写真は貴重で、もともとはこんな貧弱なものだったのかと改めて驚かされました。
日本(ヨーロッパでも)では遺伝子組換え作物に対して頑固(宗教的、確信犯的)に反対する人々がいて研究し難い環境だと思っていましたら、すでに安全性評価が終了して商業的栽培が可能になった遺伝子組換え作物が多数あることにも驚かされました。日本でも、着々と遺伝子組換え技術は進歩し、実用化に向かっていることを認識しました。
新しい育種技術(NBT:New Plant Breeding Techniques)については、時間切れで次回に持ち越されました。

講演者を囲んでの交流会(懇親会)の後、いつものように前農薬部会長の山本 出先生(東京農大名誉教授)のご自宅にお邪魔して交流会の二次会があり、楽しい時間を過ごしました。