2015年11月30日月曜日

日本農薬学会第23回農薬レギュラトリーサイエンス研究会シンポジウム「農薬の安全と安心のための急性影響評価の導入」は、つくば市の文部科学省研究交流センター・国際会議場で、次のプログラムで開催されました。
1. 「残留農薬基準値超過時におけるADI・ARfDからみた安全性の考察」
  斎藤 勲(生活協同組合 東海コープ事業連合)
2. 「バイオロジカルモニタリングによる農薬の個人暴露評価」
  上島(かみじま)通浩(名古屋市立大学大学院医学研究科環境労働衛生学分野)
3. 「欧米における作業者暴露評価について」
  田渕美穂(住友化学(株)生物環境科学研究所)
4. 「JAグループの農薬指導-主に埼玉県を中心として」
  鈴木栄一(全農さいたま営農支援課)
5. 総合討論

現在、農薬管理行政上で大きな問題になっている2つのテーマ(急性参照用量の拙速な導入に伴う現場の不信感と混乱、ならびに作業者暴露評価の導入に伴う問題)について、講演と討論が行われました。
斎藤 勲博士は農薬レギュラトリーサイエンス研究会の会長ですが、長年愛知県で残留農薬の分析をやってこられた経験をお持ちで、食品残留農薬が残留基準値(MRL)を超えた場合は、食品衛生法第11条2項、3項によってただちに回収・廃棄の措置が取られているが、実際上はそのような食品を食べても健康リスクはないという指摘をし、本当は急性参照用量(ARfD)を超えた時にリスク評価をして回収・廃棄が必要かどうか判断するのが科学的と述べました。これについては鈴木氏も、埼玉県における直売所で販売している農産物のスクリーニング検査(法律に基づく収去検査と異なる、自主的な残留農薬検査)の仕組みについて紹介し、残留基準値を超えたら回収・廃棄をするように通知をしているが農家からの反発が強く、食べてもリスクがないものを何故回収・廃棄しなければならないか納得できないという軋轢(あつれき)があると述べていました。農家の反発は、当然だと思います。
上島教授は医学部の教授で医師ですが、分析技術の進歩で農薬の尿中排泄物の検査が簡単にできるようになり、有機リン剤代謝物から近い過去に暴露があったことは推察できるが、どれだけの暴露量か、健康影響のあるレベルの暴露なのかは情報が欠けていて判断はできないという限界を述べていました。私は農薬散布の現場で長年暴露量の調査をしてきましたので、今後場合によっては共同研究の実施に発展するかもしれません。
田渕氏は、ヨーロッパとアメリカにおける作業者暴露の評価方法について比較しながら情報を提供してくれました。
鈴木氏は上記のことに加えて、作業者暴露についても、暴露量を減らすために防御マスクと防御衣の着用を勧めてはいるが、夏の暑い時期に農薬散布をする時に自分も防御衣を着用したくないし、熱中症などかえって健康に危険な現実があるという問題を指摘していました。
非常に有意義な、私にとっては収穫の多いシンポジウムでした。海外の先進国の農薬制度に合わせるという名目で拙速に急性参照用量を導入して、現場に混乱をもたらし、今まで長年積み重ねてきた実績に基づく農薬管理行政に対する信頼を崩してしまった行政担当者の責任が大きいことは明らかでですが、これを機会に食品衛生法の改正に進んで、リスクのない食品を回収・廃棄させる非道徳的愚行を止めさせることにつながれば、不幸を転じて幸になすということになるのですが。農薬管理行政を所管している役所の現在の担当者にそれだけのリーダーシップをとれる人材がいるかどうか・・。

帰り道は、国際会議場付近の青色のイルミネーションが綺麗でした。