2015年12月4日金曜日

東京農業大学総合研究所農薬部会の第100回セミナーが世田谷キャンパスの食と農の博物館で開催されました。今回は次の2題の講演がありました。
「新規殺虫剤イソクラストTM」
  播本佳明博士(ダウ・ケミカル日本株式会社ダウ・アグロサイエンス事業部門)
「我が国の農薬行政とは!」
  横田敏恭氏(アグリビジネス推進研究協会理事長、横田コーポレーション代表)

播本博士は名古屋大学大学院生命農学研究科博士課程出身(植物病理学)出身で、アメリカに本社のあるダウ・ケミカル社が発明した殺虫剤スルフォキサフロールsulfoxaflor(Isoclast)について紹介してくれました。海外ではすでに綿の害虫防除で実用化されていますが、日本では水田用にExceed SC(a.i. 20%)として、畑地作物用にTransform SC(a.i. 9.5%)として登録申請中のようです。作用機構がニコチン性アセチルコリンレセプター(nAChR)に結合することから、ネオニコチノイド剤と同類に思われがちですが、化学構造的にも、チトクロームP450モノオキシゲナーゼ系による分解性についても、nAChRに対する結合親和性についても異なるということから、スルホキシイミン類sulfoximinesに属するということでした。実際ネオニコチノイド剤抵抗性の害虫が交差抵抗性を示さないことから、IRAC(Insecticide Resistance Action Committee 世界農薬工業連盟Crop Life Internationalの中の殺虫剤抵抗性対策委員会)の分類ではネオニコチノイドとは別の4Cに分類されているということです。殺虫剤開発の歴史では、DDTのような有機塩素剤、有機リン剤、カーバメート剤に続いて開発されたネオニコチノイド剤は現在主流の殺虫剤ですが、少しずつ抵抗性の事例が報告されたり、中国から抵抗性を発達させたウンカが季節風に乗って飛来する可能性がありますので、それらに対抗する次世代の殺虫剤として期待されます。選択毒性について質問したところ、哺乳動物に対しては毒性が低いようですが、ミツバチに対しては圃場試験では影響がないという回答でしたが、ニトロイミン構造やシアノイミン構造のネオニコチノイド比べてどうかという質問には検討中ですという回答で情報の開示はありませんでした。

横田氏は私が農水省農業資材審議会農薬分科会長をしていた当時の農薬対策室長の一人でしたが、キャリア官僚として農水省のいろいろな部署で重責を担った後、定年を待たずに50才代で自己退職し、現在は横田コーポレーションを設立して代表を務める他に複数の組織の理事長を兼務しています。http://www.toshiyasu-yokota.com/profile.html
農水省を退職したとはいえ、元の勤務先に対して批判的な発言をするのは差し障りがありますので、そこのところは上手に農薬管理行政について紹介していました。彼のスライドを見ると、農薬管理行政には厚生労働省、環境省、内閣府など複数の機関が関わっていますが、農薬対策室が主役だという自負が見られます。彼が農薬対策室長時代に取り組んだ重要課題をみると、いかに大変だったかということがわかります。ただ、先日の農薬レギュラトリーサイエンス研究会のシンポジウムの時も問題になった、残留基準値(MRL)や急性参照用量(ARfD)をちょっとでも超えた農作物は、それを短期間食べても健康リスクは著しく低いにもかかわらずただちに回収・廃棄という現行の制度は非科学的であるにもかかわらず、食品衛生法の規定によってそうせざるを得ないという問題については、具体的にどういう手順を踏めば改正ができるかという質問には名案の提示はありませんでした。

セミナー終了後は食と農の博物館内のプチラディッシュという食堂で懇親会があり、その後いつものように山本 出先生(東京農大名誉教授、元農薬部会長)のご自宅で講師を囲んで何人かで二次会がありました。