2016年1月31日日曜日

「林業と薬剤」の原稿はほぼできましたので、あとは図表の整理だけです。

東京農工大学名誉教授の安倍 浩先生は、元日本農薬学会長でもありますが、名古屋大学大学院時代は私と同期で、彼は農薬化学講座で植物ホルモンに関する先駆的研究をしていました。最近、安倍先生から名古屋大学農学部の生物化学講座の出身で味の素株式会社の中央研究所長をしていたY氏を紹介されました。現在は信州大学の特任教授をされていて、松枯れ防除に珪酸化合物を利用できないかというアイデアをお持ちで、私と何回かメールのやりとりをしています。
最近ネットで見つけたという同様の資材に関する以下の情報が送られてきましたが、驚きました。

松枯れの原因の第一は根圏土壌に問題があり、松自体の樹勢が低下する事にあります。本剤は松に必須の可溶性ケイ酸と、ケイ酸に相乗効果のある可溶性マグネシウムを特殊加工し配合した、葉面散布式の松枯れ防除剤です。マツノザイ線虫の様な病害虫に対しても、抗病力を向上させ、葉・根の生育促進効果を発揮します。

散布前の葉先  散布後の葉先
 
「松枯れの原因の第一は根圏土壌に問題があり・・」という表現は、北海度と青森県を除く日本全国で猛威をふるってマツを枯らしているいわゆる「松くい虫」被害(マツノマダラカミキリがマツノザイセンチュウを媒介して、樹体内に侵入したマツノザイセンチュウが樹脂浸出停止・萎凋症状を起こして「松枯れ」を起す)と土壌問題に由来する「松枯れ」と混同して、宣伝している当該資材を茎葉散布することで「松くい虫」被害に対して防除効果があるかのような間違った印象を与えます。
 
「松枯れ」の原因については、国、県、大学等の長年にわたる研究の蓄積によって「松くい虫」が主要因であるということが科学的に明らかにされているにもかかわらず、いまだに一部の研究者が大気汚染や酸性雨や土壌問題が原因と主張していることは信じ難い状況です。
「松くい虫」という伝染病を防ぐには、媒介昆虫のマツノマダラカミキリが被害木から羽化脱出後、性成熟のために新梢の樹皮を後食(こうしょく)する時に殺虫剤を散布して、マツノザイセンチュウが虫体を離脱して樹体内に侵入・感染するのを予防するのが基本ですが、異説によって薬剤散布が中止に追い込まれた結果莫大な松枯れが全国各地で起こっています。予防散布を中止した松林は3~4年で消滅するだけでなく、周辺松林への伝染病の感染拡大の発生源になりますので、甚大な被害をもたらします。