樹木医会茨城県支部の人たちを中心に、取手市高源寺境内にある地蔵ケヤキの樹勢診断をするために朝10時に集まりました。http://www.edu.pref.ibaraki.jp/board/bunkazai/ken/tennen/14-9/14-9.html
講師の元静岡大学教授の伊藤忠夫先生(森林立地学)と国立研究開発法人森林総合研究所森林昆虫研究領域チーム長の北島 博博士(広葉樹害虫担当)と、見学のために参加した私を含めて11人が午後4時まで土壌の固さ調査や、地層断面の土性や根の分布調査をしました。
このケヤキは樹齢約1,600年(聖徳大使の前)と言われ、高源寺はそれから約500年後に創建された禅寺とのことでした。境内には千葉県の自然文化遺産に指定されている地蔵ケヤキの他に、取手市の保存樹として指定されているカヤの大木やスダジイの大木などもありました。境内にある供養塔もちょっと見ると寛文5年(1666年)建立とか安永5年(1776年)建立と刻んでありますので、相当古い由緒あるお寺のようです。
普通ケヤキの樹形は太い幹が空に向かって堂々と立っている印象を持っていましたが、地蔵ケヤキの幹の地面に近い部位は癭(こぶ)にようにゴツゴツしていて、大きな洞になっていました。案内板によると、主幹部は大火の時に焼けたとありますので、その後根株から発生した萌芽が癒合して今のような樹形になったのかもしれません。
一見して異常だったのは葉の大きさが小さいということと、今の時期にしては枯葉が多いということでした。これは、北島博士の診断で、葉は最近あちこちで大発生して問題になているヤノナミガタチビタマムシという害虫の成虫による食害(葉縁部が食べられて欠落している)と幼虫による食害(葉肉内に潜って食べるので褐色部分として残っている)が起こっているということでした。実際に、本堂の裏にある比較的健全なケヤキの大木の葉にも同様な食害痕があり、幹の樹皮下には越冬準備中と思われる成虫が多数存在しました。
枝先には害虫による食害痕のない枯葉も多数存在し、これは根からの水分吸収が不十分なための萎凋の可能性があるというのが伊藤先生の診断でした。伊藤先生は、東京都の影向(ようごう)の松が衰弱した時に対策チームを指導して見事に樹勢回復に成功した実績を持っている方です。伊藤先生の指導で、地蔵ケヤキの周りの地面の固さを測定し、固い所と柔らかい所(以前、土壌改良材としてバーク堆肥と牛糞堆肥を入れたところ)の2ケ所を掘って地層断面の観察調査をしました。
地蔵ケヤキの周囲は今は垣根で囲って立ち入り禁止にしていますが、以前は参拝者自由に歩いたり駐車場にしたりしていたそうで、固い所の地層は地下50cmまで土壌が固化していて、酸素不足が推察され、根の分布も非常に僅かでした。一方土壌改良剤を入れて所は1m地下まで柔らかく、多数の根が分布していました。
また、根自体も固い所に分布している根は細根が少なく、切り出した一部の根には菌類が侵入して腐朽が見られました。それに対して、柔らかい所に分布している根は細根が多く、健全な状態でした。
これらの調査結果から、今後この地蔵ケヤキの樹勢を回復するには、周囲の固い地層の土を掘って土壌改良剤(ピートモスと木炭粉と緩効性堆肥など)を入れることと、できたらヤノナミガタチビタマムシの防除が有効だろうということになりました。一つの問題は、ケヤキのヤノナミガタチビタマムシに対して農薬登録のある殺虫剤がないということです。防除効果のある殺虫剤はたくさんある筈ですが、農薬取締法の一部改正以来、無登録農薬の使用は禁止になりましたので、地蔵ケヤキのような県の自然文化遺産に指定されている銘木に無登録農薬を散布することはできないということです。法律改正は、海外から直輸入された無登録農薬を食用作物に使用することを禁止するのが主眼だった筈ですが、ケヤキ以外の樹木の害虫防除に登録があってもケヤキに登録がなければ法律違反になるという硬直化した解釈がされていることが問題です。この点については、一度農薬取締法を所管している農林水産省に問題提起をする必要がありそうです。