2016年11月25日金曜日

東京農業大学世田谷キャンパスの食と農の博物館で、総合研究所研究会農薬部会の第104回セミナーが開催され、2題の講演がありました。いずれも素晴らしい内容で、質疑応答も活発に行われ、大変勉強になりました。
1. 「新規殺菌剤オキサチアピプロリンの開発と作用特性」
  久池井 勝氏(デュポン・プロダクション・アグリサイエン
  ス株式会社研究・開発本部開発部殺菌剤マネージャー)
2. 「除草剤と雑草管理の30年予測」
  小笠原 勝氏(宇都宮大学教授・雑草と里山の科学教育研究
  センター副センター長)

久池井氏はデュポン社が本年4月に日本での農薬登録を取得した新規殺菌剤オキサチアピアプロリン (商品名 デュポンTMゾーベック®エニケード®)の開発成功の経緯を紹介しました。大変参考になったのは、世界の植物保護剤(農薬)の市場とその中で殺菌剤が占める割合、新規剤の発見(研究)・開発に必要な費用と上市までにかかる期間(年数)、などのバックグランドの情報も提供してくれたことでした。
2013年の植物保護剤(農薬)全体の世界市場は$54 billion(54兆円)で、殺菌剤は約1/4の$14 billion(14兆円)だそうですが、研究・開発・登録にかかる費用は平均$256(256億円)なので、殺菌剤開発も市場の大きい分野を対象にせざるを得ないということのようです。

オキサチアピアプロリンの場合は、2003年に活性化合物を発見してからベストの構造を決定した2008年までの5年間が研究期間で、圃場試験・毒性試験を開始した2009年から農薬登録を取得した2016年までの7年間が開発期間で、市場の大きいブドウ、バレイショ、野菜類の疫病とベト病を対象に登録を取得したとのことでした。
今回は殺菌剤の話でしたが、1つの新規農薬を発見して開発するのに大変な費用と年数がかかるということがよくわかりました。









小笠原教授の講演は、除草剤開発と雑草管理の社会的ニーズから話を始め、日本の農業の現状と特に水稲用除草剤の開発の歴史的経緯を紹介しました。多くの人によく引用されますが、2014年のトヨタ自動車1社の販売額が25兆円なのに対し、2013年の我が国の農業全体の生産額は8.47兆円という数字は、農業は厳しい産業だということを実感させられます。農業就労人口も1960年の1,454万人から2010年は261万人に減少し、しかも満60才以上の割合が17%から74%となって高齢化しています。
 
除草剤抵抗性遺伝子を組み込んだ作物については、雑草への遺伝子流動の問題があるという指摘をされました。私が一番勉強になったことは、これからは非農耕地(例えば河川法面、道路路肩、鉄道線路など)の雑草管理が重要になり、その対策としての除草剤の市場は大きいということでした。ただちょっと気になったことは、これらは非農耕地ですから、現在のルールではそこで使われる除草剤は農薬登録が必要ないということです。人と環境への安全性を確保するために、農林水産省、環境省、国土交通省、厚生労働省など省庁横断的な組織と、非農耕地の植物保護剤をカバーできる新しい規制・管理の仕組みを考える必要があるように思いました。  
 





     
いつものように、セミナー終了後は1階のレストランで懇親会があり、さらにその後は山本 出先生のご自宅で講師を囲んでの二次会もあり、楽しい時間を過ごしました。