2016年11月13日日曜日

信州大学繊維学部は長野県上田駅を降りてお城口を出て徒歩20分ぐらいのところにありました。日曜日だったせいかキャンパス内にはあまり人影がなく、静かなたたずまいの中に木々の紅葉/黄葉が鮮やかで綺麗でした。
学会は午前中は一般講演、午後は特別講演とシンポジウムでした。この学会は、石井 実学会長の説明では1998年に発足したとのことですが、関西を中心に主に2つの分野の研究者から構成されています。1つは、生活環境(住宅地や都市)の害虫や小動物防除に関する分野、もう1つは、里山や自然環境の生態系保全の分野です。

私は午前中は前者の発表会場に行きましたが、蚊の防除や、ゴキブリの防除や、ネズミの防除やシカの防除に関する興味深い発表がありました。都市では時々ゴミ屋敷の問題がテレビでも報道されますが、ゴミを行政処分でいきなり撤去すると生息している大量のゴキブリが周辺住宅に移動分散するので、あらかじめ防除することが必要でその方法としてベイト(毒餌)剤が有効という発表はおもしろいと思いました。また、最近はシカによる樹皮や苗木の新芽の食害が問題になっていて、トウガラシの抽出物を有効成分とするスプレーを10秒間噴霧しておくと摂食忌避効果があるという発表も面白いと思いました。そういう製剤は農薬登録が必要かという問題につては、人の手が加わったところ(林地や苗圃)に使う場合は農薬と見なされるということのようです。

午後からは大川浩作先生(信州大学繊維学部先鋭融合研究群国際ファイバー工学研究所教授)の「ざざむしシルクとは? -信州産新素材としての可能性」と題した特別講演がありました。ざざむしというのは、千曲川に生息しているヒゲナガカワトビケラ幼虫のことですが、これが水の中で吐出する糸には従来カイコが作るシルクとは違った性質があるので、実験室内で吐出させて採集した糸について解析し、将来いろいろな分野で応用できる可能性を示していました。
シンポジウムは今回の大会が信州大学で開催されたということで、「山岳環境と生物多様性・生物の適応戦略」というテーマで市民公開で実施されました。参加者が非常に少なかったのは残念でしたが、4題の講演はいずれも大変興味深い、レベルの高い内容でした。
1. 「標高経度に沿った昆虫類の遺伝的分化」上田昇平(大阪府立大学)
2. 「上高地の歴史とチョウ類群衆」江田慧子(帝京科学大学)
3. 「シナイモツゴはなぜ希少種になったか-わずかな種間差が引き起こす絶滅のメ 
  カニズム」小西 繭(信州大学)
4. 「人と野生動物との新たな関係の構築を目指して」泉山茂之(信州大学)
最初の3題は若手の研究者が取り組んでいる希少生物種の保全の話でしたが、最後の講演はベテランの信州大学先鋭融合研究群山岳研究所長による、最近人身被害や農耕地被害で問題になっている野生動物(シカ、イノシシ、サル、クマ)の中で、主にシカとツキノワグマの問題についての話でした。