2017年2月10日金曜日

松戸駅12:26発の地下鉄千代田線に乗って、小田急線の経堂駅には13:24に着きました。東京農業大学総合研究所研究会生物的防除部会の平成28年度第3回講演会は、1号棟3Fの教室で14:00~17:30に開催されました。3題の講演があり、いずれも興味深い内容で勉強になりました。

私は特に演題1の水野達雄氏による「マラリア対策、社会問題を事業化する」に関心があってこの講演会に参加しました。普通の講演と違って、演者自身がMy Life Event Chartと題したスライドで自己紹介をしましたが、水野達男氏は北海道大学を卒業後、農薬会社のモンサント社、アメリカンサイアナミッド社、住友化学に勤務して、現在はNPO法人マラリア・ノーモア・ジャパン(MNMJ)の専務理事をしておられる方でした。住友化学勤務時代に開発された殺虫剤(パーメスリン)を練り込んだポリエチレン樹脂で作った蚊帳(かや)(商品名オリセットネット)を、ハマダラカと呼ばれる蚊が媒介するマラリアに苦しんでいるアフリカでどうやって事業化に成功したかを、アフリカ社会の変化の紹介から始めて、順に説明しました。
NPO法人マラリア・ノーモア・ジャパンについては:
http://www.mnmj.asia/
http://www.bbt757.com/pr/bbtch/130/
スライドも効果的でしたし、途中で上映したDVDも「百聞は一見に如かず」のたとえの通りで、現場を理解するのに非常に効果的でした。

質疑応答の時間に、現地ではオリセットネットを川に設置して魚を獲るのに使っている(パーメスリンは魚毒性が高いピレスロイド系殺虫剤なので)というニュースが報道されたが実態はどうかという質問に対しては、自分は魚の捕獲に使うところは目撃したことはないが、獲った魚をネットの上に並べて乾燥するのに使っている(ピレスロイド剤には昆虫に対して忌避効果があるので)のは見たことがあるとのことでした。
オリセットネットは有効成分のパーメスリンがスローリリース(徐放性)にしてあるので、蚊に対する防除効果が5年間も持続するということは、逆に抵抗性が発達するのに適した条件だが、現地での抵抗性の発達状況はどうかという私の質問に対しては、確かに抵抗性の問題があると認めましたが、抵抗性のレベル(防除できない程度か)や広がり(分布範囲)についての説明はありませんでした。ただ、抵抗性対策としては、オリセットネットに含まれる合成ピレスロイド剤とは作用機構が異なる殺虫剤の残留噴霧など、別の方法を併用することで抵抗性発達を遅延させる可能性があると言及していました。

演題2の和田哲夫氏は化学殺虫剤も販売している会社で、天敵を用いた生物的防除の普及に尽力している人ですので、世界的に生物的防除への期待が高まっている現状を紹介しました。しかし、日本でも地域や作物や栽培形態によっては天敵が主要防除方法になっている場合がある(例えば施設栽培のナスなど)一方で、一般的には天敵は農家になかなか使ってもらえないという実態についても冷静に解析していました。

演題3の千葉大学教授の中牟田 潔氏の講演は、先月名古屋大学害虫制御学教室の研究集会で講演したのと全く同じ内容でしたので、私にとっては2回目でした。一番面白かったのは、ヒメボクトウという害虫としてはマイナーな存在だった昆虫が何故最近になって分布が拡大して問題化してきたかという問題でした。証拠はありませんが、従来は有機リン剤や合成ピレスロイド剤のように殺虫スペクトラムの広い殺虫剤で同時防除されていたのが、選択性の高いネオニコチノイド剤に置き換わってきたことで、発生が増大して顕在化してきた可能性も考えられます。

懇親会が終わって経堂の駅に向かったのは夜の8時半を過ぎていましたが、ハートフル農大通りの出入り口には電飾の派手な門が設置されていました。












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