2017年6月10日土曜日

一般社団法人日本樹木医会千葉県支部主催、一般社団法人日本樹木医会関東甲信越協議会・特定非営利活動法人樹の生命を守る会共催の平成29年度樹木医研修会は、「白砂青松は取り戻せるか」というテーマで千葉市のホテルプラザ菜の花で午後1:00~5:00に開催されました。
私は、「松枯れは何故終息しないのか-過去13年間の取り組みから見えてきた問題点-」という演題で質疑応答を含めてちょうど1時間半ぐらいで講演しました。
続いて、三重県の樹木医で(有)石黒植物園石黒樹木医事務所代表の石黒秀明氏が「松枯れの雑学-センチュウ目線でマツ枯れをみる-」という演題でやはり1時間半の講演をされました。石黒氏は職業が研究者ではないということで、謙遜して演題に「雑学」と入れましたが、内容はマツノザイセンチュウのスライドグラス上の行動や、マツ枝の切片の樹脂道への侵入行動など、顕微鏡下で長時間根気よく観察しなければ見られない動画を撮影して紹介されました。
参加者の大半は樹木医や県で松くい虫防除に関わってきた研究者でしたが、異色だったのは国立研究開発法人国立国際医療研究センターでがん(癌)の研究をしている研究者が参加していて、興味深い質問をしました。確か以前、特定のがん細胞を認識するセンチュウが見つかって、抗がん剤をセンチュウにピンポイントにがん細胞に運搬させる可能性がでてきたというニュースを見た記憶がありますが、松枯れの場合、マツノザイセンチュウに薬剤を運搬させて共生関係にあるマツノマダラカミキリを防除する可能性は考えられないかという質問でした。
マツノマダラカミキリはマツノザイセンチュウが増殖して衰弱したマツを選んで産卵し、孵化した幼虫が樹体内で発育して蛹化する時にマツノザイセンチュウが蛹室に集まって気門に侵入するということが知られていますので、昆虫の脱皮変態を阻害する薬剤や殺虫活性のある薬剤を的確にマツノマダラカミキリに配達するというアイデアは面白いのですが、技術的に可能な薬剤(昆虫にだけ活性があってセンチュウには影響が無く、かつセンチュウが昆虫の気門に侵入した時にリリースされる)が開発されたとしても、すでにマツノザイセンチュウが侵入して枯死するマツしか対象になりませんので、現実的には松林保護に役立つ可能性は極めて小さいと思われます。
研修会終了後は、近くの居酒屋で懇親会があり、楽しいひと時を過ごしました。