2017年8月18日金曜日

8月13日(日)に配信されたネットのニュースに、「欧州で卵に殺虫剤=17カ国・地域に波及」という見出しの記事が載っていました。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170813-00000029-jij-eurp
今度は8月16日(水)に配信されたネットのニュースに、「殺虫剤汚染:韓国でタマゴ出荷全面禁止、食卓に影響大」という見出しの記事がありました。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170816-00001201-chosun-kr
それを受けて、今朝8月18日(金)のフジテレビの8:00-9:50に放映されるとくダネという番組で、「なぜ・・・韓国「殺虫剤入り卵」"卵なしオムライス"日本対策は?緊急取材」という見出しで取り上げ、韓国とヨーロッパで大量の卵が廃棄される映像を紹介しました。

卵から検出されたのはフィプロニルというフェニルピラゾール系の殺虫剤で、神経系のγ-アミノ酪酸(GABA)受容体を阻害する化合物ですが、いずれもどういう経路で鶏卵がこの殺虫剤に汚染されたかについては説明がありませんでした。
農薬としてはBASF社が権利を有していて、プリンス粒剤は稲の育苗箱で床土と混和して用いられ、プリンスフロアブルは希釈液が各種野菜類に茎葉散布して用いられます。動物用医薬品としては、フロントライン・スプレー(散布)やフロントラインスポット(スポット施用)という製剤名で犬や猫のノミ・マダニ防除に用いられています。
フィプロニルはマックスフォースマグナム(防疫用医薬部外品)という製剤名で、ゴキブリ防除用のベイト剤としても用いられており、アジェンダSC(医薬用害劇物)という製剤名で、シロアリ防除剤としても用いられています。
フィプロニルのラット♂に対する急性経口毒性は92mg/kgですから劇物相当で、ADIは0.00019mg/kg体重/日、ARfDは0.02mg/kg体重と報告されていますので、人畜毒性はかなり高い方に入ると言えます。

私は千葉大学の現職時代に何年間も養鶏場を含む畜舎におけるハエ類の生態と防除に関する研究をした経験から、もしかしたら鶏の餌に意図的に混入して食べさせたものが一部卵に残留したのではないかと想像しました。
大規模養鶏場では、膨大な量の鶏糞が蓄積してハエ類(主としてヒメイエバエ、イエバエ、オオイエバエ等)が大発生しますし、ワクモと呼ばれる吸血性のダニも発生します。
通常はこれらの害虫に有効な殺虫剤(合成ピレスロイド剤、有機リン剤、カーバメイト剤など)を散布して防除しますが、鶏自体にもかかるのでよろしくないし、頻繁な散布で抵抗性が発達して防除効果が著しく低下する事例がよく見られます。
シロマジンはトリアジン系殺虫剤で、ハエ類の脱皮変態を阻害する幼虫発育制御剤ですが、ネポレックスKSG2という製剤が鶏糞に施用されたり、餌に混ぜて(日本では不可)鶏に食べさせたりして用いられます。シロマジンは水溶性が高い(11g/ℓ)ので、大部分は鶏の体内を素通りしてそのまま糞中に排泄され、そこで発育するハエ類の幼虫を防除します。ペットの皮膚病の原因になるノミにも高い防除活性を示します。餌に混ぜて食べさせても、肉や卵には残留しない(しても極微量)ということでそういう使い方が認可されていますが、これだけに依存し過ぎると抵抗性も発達してきます。

フィプロニルの水溶解度は2ppm(=2mg/ℓ)と比較的低く、餌に混ぜるという使い方の登録はなかった筈ですが、シロマジン抵抗性のハエ類やノミ・ダニの防除に困った欧州の養鶏業者が隠れてそういう使い方をしていて、それが一部卵に残留し、検出されたのかもしれないと想像した次第です。いずれ卵への汚染経路も明らかにされる筈です。
上記の8月13日配信の記事では、[フィプロニル・・を人が大量に摂取した場合、腎臓や肝臓に悪影響を与える恐れがある。ただ現時点では健康被害の報告はなく、EUや各国当局は「少量では健康への影響はない」と説明している。]と追記していますが、実際に鶏卵から検出された濃度がどの程度だったのかについては言及していません。
しかし、登録のない使い方をしたということで食の安全への信頼が損なわれ、欧州でも韓国でも莫大な量の鶏卵の行政的廃棄処分命令につながり、養鶏産業や鶏卵を原料とする食品産業に想像を絶する甚大な被害をもたらせたということなのでしょう。
農薬にしても動物用医薬品にしても、安全性は登録制度で確保されていますので、登録を無視した使い方がされれば、安全性確保の仕組みそのものが損なわれるということになります。