2017年8月11日金曜日

千葉大学園芸学部の研究室同窓会(私が現在の会長)の不定期に発行されるニュースレター「松虫タイムズ」から依頼されていた原稿はすでに2つ書いて提出しました。
「林業と薬剤」という雑誌から依頼されていた原稿も2~3日前に書き上げて提出しましたので、今は校正用のゲラ刷りが届くのを待っている段階です。
今月28日に群馬県で開催される東京農大グリーン研究会/総合研究所研究会芝草部会共催の平成21年度夏期研究会から依頼されている講演のスライド作成も今日一応できましたので、あとは少し時間をおいて見直して若干の修正をすればいいだけです。
これでやっと一息つきましたが、明日からは、9月7日-8日に兵庫県で開催される松枯れ防除実践講座で講演予定のスライドの準備を始めるつもりです。

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”You Can’t Go Home Again”(汝再び故郷に帰れず)

会長・昭和41年卒 本山直樹

 私も今年は後期高齢者の仲間入りをしましたが、まだ年に10回程度の全国各地での講演活動をしています。7月は広島、旭川、宮崎で開催された一般消費者を主対象とした農薬シンポジウムで基調講演をし、パネルディスカッションにも出演しました。シンポジウム終了後は一泊して開催地周辺を旅行しましたが、広島では空中散布中止によって松くい虫激害で消滅した松林の現状を見て回り、旭川では旧陸軍第7師団の跡地にできた陸上自衛隊駐屯地の北鎮(ほくちん)記念館と見渡す限りの小麦畑、富良野のラベンダー畑などを見て回り、宮崎ではレンタカーを運転して終戦後朝鮮から引き揚げてきて幼少期を過ごした小林市の記憶に残っている場所を見て回りました。引き揚げ者用の住宅があった小林高校周辺も私が通っていた緑ヶ丘小学校周辺もすっかり景色が変わっていて、ノースカロライナ州出身の作家トーマス・ウルフの小説 ”You Can’t Go Home Again”(汝再び故郷に帰れず)を思い出しました。現実はどんどん変化し、故郷とはまさに心の中だけに存在するものだと実感しました。

当時私の母(23年前に85才で永眠)は小林市立永久津(ながくつ)中学校(創立昭和22年)の教諭をしていて、幼児だった私を連れて学校に行き、毎日用務員室に預けていました。ずいぶん遠い山の中の道を雨の日も風の日も母と一緒に歩いて通っていた記憶が残っていますので、カーナビで検索してどんなところだったのか訪ねてみました。小林高校からちょうど片道4kmの道程でしたが、永久津中学は今でも田舎のままの山の上にありました。校内を散策しながら写真を撮っていたら、土曜にもかかわらず体育館から何かスポーツに興じている女子生徒たちの元気のいい声が聞こえてきました。昔は木造の平屋の校舎だった筈ですが、今は鉄筋のりっぱな2階建ての校舎に体育館、プールもできていました。元気のいい声が止み、体育館から出てきた40代の女性の先生が私を見て話しかけてきました。女子バレーボールの試合が明日あるので練習をしていたが、永久津中学の生徒数は3学年合わせて31人(女子はそのうち11人)で、女子バレーボール部は1年生が今年3人入部してくれて部員数が9人になったのでやっと試合に出られるとのことでした。近くの永久津小学校も6学年合わせて生徒数は70人ちょっとなので、運動会は小中学校合同でやっていて、学校の存続がこの先どうなるのかわからないとのことでした。

少子高齢化は日本社会全体の問題ですが、過疎地では特にその影響が大きく、限界集落と呼ばれています。そんな中でも、昔暮らした九州の田舎で元気にがんばっている先生と生徒たちに出会えてホッとしました。離れた者のわがままですが、いつまでも故郷を守り続けてほしいと心の中で祈った私でした。

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医学は科学ではないのか?

会長・昭和41年卒 本山直樹

 マツノマダラカミキリは68月に羽化脱出して樹冠部の当年枝・1年枝の樹皮を後食(こうしょく)する時にマツノザイセンチュウを侵入させるので、樹高の高い林分ではヘリコプターによる散布が最も効果的な散布方法です。ところが一部の医師や科学者を含む反農薬活動家は、ヘリコプターによる薬剤散布は高濃度薬液を上空から散布するので危険で周辺住民に健康被害が生じていると主張して行政に圧力をかけ、薬剤散布を中止に追い込んでいます。しかし面積当たりの有効成分投下量を比較してみると、例えば有機リン殺虫剤のフェニトロチオンを含む園芸用スミチオン乳剤(50%)の1,000倍希釈液100300/10a散布と林業用スミパイン乳剤(80%)の18倍希釈液3/10a散布は、それぞれ50150mg/m2133mg/m2に相当し、大差はありません。

2005年の日本臨床環境医学会総会で発表された論文では、群馬県で2004911月に無人ヘリコプターで散布されたネオニコチノイド剤と有機リン剤に暴露して体調不良になり24時間以内に受診した55人の患者に心電図異常が大量に検出されたと報告し、患者の分布地から判断して40km離れた場所でも暴露は起こると主張しました。しかし911月に松くい虫防除の薬剤散布は行われませんし、調べてみるとこの期間に無人ヘリで有機リン剤が散布されたのは太田市の大豆畑での1回だけでした。群馬県のあるゴルフ場では、薬剤散布予定地から10km離れた場所の患者2名が、現地は降雨で散布は中止されていたことを知らずに、散布予定時刻に体調悪化を理由に散布中止を訴えるFAXを県庁に送ったという事例もありました。私たちは過去13年間、群馬県(2004年の太田市、2005年の富士見村)を含む全国各地での松くい虫防除で散布された薬剤の周辺地域における飛散調査をしましたが、ほとんどが検出限界以下か、検出されても閾値以下でした。

 暴露の根拠がないという指摘に対して、最近、上記医師のグループは尿中から微量検出されたネオニコチノイド剤とその代謝物をネオニコチノイド特有の急性中毒症状と結びつける論文を発表し、今度は飛散薬剤ではなく食品残留農薬摂取による暴露が原因で健康被害が起こっていると主張しました。しかし、検出された濃度はそれぞれの農薬のADI(一日摂取許容量)の1/100以下、1/1,000以下、1/10,000以下相当でした。そんな微量で急性中毒症状が起こるとは信じられませんが、尿中検出濃度と暴露量の関係が不明ですので、私たちは人体実験に関する倫理審査委員会の承認を得た上で、飛散薬剤の経皮暴露・吸入暴露と尿中排泄濃度の関係、ならびに食品残留農薬の喫食による経口暴露と尿中排泄濃度の関係について、共同研究を始めたところです。

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