農林水産省消費・安全局植物防疫課主催の第29回病害虫防除フォーラム~農林水産業におけるドローンの利活用推進について~は、霞ヶ関の農水省本館7階の講堂で今日開催されました。私は事前申し込みをしてありましたので、聴講してきました。当初は定数150人とされていたのが、実際は会場一杯の約300人が参加していましたので、予想を超える申し込み人数に対応するために座席数を増やして全員を受け付けたのではと想像しました。
農水省本館の7階は林野庁が入っているフロアで、私は以前何回か出入りしたことのある場所でした。廊下には林野庁らしい森林や木材に関する展示コーナーが設置してあり、木で作ったアート作品がいい感じでした。
フォーラムはドローンによる農薬散布に関係する3つのグループから構成されていました-農水省の植物防疫・農薬を所管する部署、ドローンメーカー、ドローンを使う農業法人や農業生産者。
私が一番興味のあった行政機関の説明スライド「ドローンによる農薬散布の手続きの流れ」では、農水省、国土交通省、ドローンメーカー、ドローン・ユーザーが関わっていることはわかりましたが、具体的に登録認定等機関や代行申請者や教習機関が誰を指すのかがあいまいでした。また、一般社団法人農林水産航空協会が果たす役割についても不明でした。実際は関係者には全部わかっているのでしょうが、一般の聴講者にはわかりませんでした。
水田や松くい虫防除で有人ヘリによる農薬散布を推進してきた農水省が、何年か前に無人ヘリ(略称ラジコンヘリ、ラジヘリ)に切り替えた時のことを思い出しました。松くい虫防除については、当時招集された無人ヘリによる松くい虫防除運用基準作成検討委員会に私は副座長として参加しました。
ドローンの技術の目覚ましい進歩に伴って、農水省は今後ドローンを活用した精密農業を推進しようという政策のようです。
会場のステージには各メーカーのドローンの機体(多分、農薬散布機として審査・認可済み?)が陳列してありました。メーカー講演では、各社とも高性能を強調していました:リモートセンシング機能によりcm単位のスポット散布や自動飛行が可能、レーダーにより直径10cm程度の障害物との衝突回避が可能、超音波で風向・風速をリアルタイムで計測して風による散布薬液のドリフト補正が可能、バッテリーの持続時間が10分と短いという弱点については水素やガソリンと電気のハイブリッドの利用技術を開発中、上下2枚のロータを逆回転(2重反転ロータ)させることでダウンウォッシュ(下降気流)を発生させて作物への薬液の付着を確保、意図的違法行為を防ぐインターロックシステム、など。
用途としても、農薬の液体・粒剤散布の他に、肥料の散布、果樹園(リンゴとサクランボで試験実施)における花粉散布による受粉作業、作物の光合成測定による生育診断、などいろいろな可能性が紹介されました。
ドローンメーカーの中の2社(DJI Japan社、XAIRCRAFT社)は中国の企業で、中国の方がすでにドローンの技術が進歩し実用化の普及が進んでいる様子でした。
いくつ問題点も指摘されました。農薬散布機体として審査・認定を受けていないメーカーのドローンが、インターネット上で認定は必要ないとして宣伝・販売されていることに対して規制する法律がない、ドローンでは薬液積載量の制限(10リットル程度)から高濃度液の散布がされるが、現在の農薬使用基準と異なる希釈倍数の散布ではあらためて薬効・薬害・作物残留試験をして適用拡大をしなければならない、利用者にとって機種ごとに免許が必要というのは過剰規制(車の場合は1つの運転免許証で他の車も運転できるのに比べて)、現在はガイドラインがないので隣国(中国?)では実施されている自動飛行ができない、無人ヘリが高性能で高価格(1機1,500万円?)に対してドローンは低価格(1機500万円?)が魅力なのに、オーバースペックで高価格になる傾向がある、など。
結局、審査・認定を受けていないドローンで農薬散布をする場合は罰則を含めて規制を強化してほしいという要望と、自動飛行や機種ごとの免許など規制を緩和してほしいという逆の要望と、散布薬液の希釈倍数が違う場合でも面積当たりの有効成分量が変わらない場合は試験を全部やり直さなくてもいいという解釈ができれば適用拡大が容易になるという意見などがありました。また、ユーザーの立場からは、施設内での農薬散布や公園での松くい虫防除の農薬散布に使えないかという希望が出ましたが、メーカー側からはどれぐらいニーズ(マーケット)があるかによってそれに適した技術開発に投資できるかが決まるという回答でした。
フォーラムが終わって建物の外に出たら、すでに暗くなっていて霞ヶ関の官庁のビルの窓には明かりが灯っていました。
今日のフォーラムはよく企画されていて、私にとっては大変よい勉強になりました。
日本の官僚は優秀ですから、指摘された問題点についても、農水省は国土交通省その他の関係機関と相談をしていずれ上手に解決していくことを信じています。