2018年11月13日火曜日

茨城県立の国民宿舎「鵜の岬」は予約をとるのが難しいと言われるほど人気があるらしく、施設も周囲の景色もりっぱでした。朝7時に予約した朝食後、庭から歩いて海岸を散歩しました。碁石湾の向こうに広がる太平洋から朝日が昇るのを少しだけ拝むことができました。海に向かって切り立っている崖にはクロマツとハマギクが生えていました。こんな厳しい環境下で生育できるのですから、両方ともその生命力は大したものです。
クロマツには殺線虫剤を樹幹注入したことを示すラベルが何枚も貼付してありましたので、何年か間隔で繰り返し施工して松くい虫被害から守ってきたことがわかりました。













皆はその後、あちこち見学して夕方解散の予定でしたが、私は東京農業大学総合研究所研究会生物的防除部会の今年度第2回の講演会がありましたので、朝9時に国民宿舎に一番近い十王駅まで車で送ってもらいました。電車で松戸の自宅に戻って、髭を剃って、Gパンからスーツに着替えて、東京農大世田谷キャンパスの1号館に向かいました。
農大通りの垣根に沿って花壇があって、草花が植栽されていますが、通りがかりに誰かが草花を盗むらしく、盗まないで下さいと書いた学生の注意書きが掲示してありました。心無い無責任な人はいつの時代にもどこにでもいるのでしょうが、草花を植えた人の努力や、草花を見て楽しむ通行人の気持に思いをはせることができない人間がいるということは情けない限りです。







生物的防除部会の講演会では2題の講演があり、いずれも素晴らしい内容で、大変勉強になりました。懇親会にも参加して何名かの参加者と名刺交換をして交流できました。
1題目は、農水省の農研機構果樹茶業研究部門リンゴ研究拠点の岸本英成氏の「土着ジェネラリストカブリダニ類に対する各種殺虫剤の影響評価」と題した講演でした。昔から「ミカンは肥料、リンゴは農薬で育つ」と言われてきたように、リンゴは病害虫防除で頻繁な農薬散布が必要とされてきましたが、その中の特にハダニに対して天敵のカブリダニを活用する技術が開発されてきました。ただリンゴの害虫はハダニだけではありませんので、それらの防除で散布される殺虫剤にカブリダニ(天敵)が影響を受けないようにすることが重要課題です。岸本氏らは、カブリダニをハダニ専門に捕食するスペシャリストと花粉その他の餌でも生育できるジェネラリストに分け、特にハダニ密度の上昇を予防する役割を果たしているジェネラリストの各種殺虫剤・殺ダニ剤に対する感受性を検定して明らかにしました。
リンゴを加害する害虫はハダニだけではありませんので、岸本氏が最後の今後の予定・課題のスライドで指摘した「天敵利用と他の病害虫防除との両立」は、正にその通りだと思いました。

     (スライドはクリックすると拡大できます)














2題目は、本年5月まで(一社)全国農業改良普及支援協会の副会長をしていた関 康洋氏の「生物農薬(天敵昆虫剤)と化学農薬の普及方法の相違点」と題した講演でした。
生物農薬が何故期待されたほどは普及しなっかったについて考察し、その中の1つは生物農薬を化学農薬の代替剤として認識していたという点を挙げました。
化学農薬を西洋医学、生物農薬を東洋医学と見なして、それぞれの特徴を生かした使い方をする必要があるという指摘は説得力がありました。
私が千葉大学教授として現職時代にも、卒業論文や修士論文の研究として施設栽培における天敵の研究をしていた学生・院生は発表会での研究の背景として、よく「化学農薬による健康被害や環境に対する悪影響を軽減するために」という説明をしていましたので、時々皮肉を込めて、「施設内で散布された農薬がどれだけ施設外環境を汚染してどういう悪影響を及ぼしていますか」という質問をしたことがあります。学生・院生はたいてい答えられなくて当惑していましたが、私としては、研究者たるもの社会で言いふらされていることを鵜呑みにするのではなく、一つ一つちゃんと科学的根拠を検証して発言することが大切だということを認識させることが目的でした。
そういう意味で、関氏の講演は問題点をしっかり把握していてさすがでした。特に、「新しい技術の開発の目指すもの」のスライドは、生物農薬に限らず化学農薬も含めた作物保護全体に当てはまる適確な指摘だと思いました。