1. 除草剤ラウンドアップ(有効成分グリホサート)の発がん性の問題について
月刊誌「農業経営者」の6月号と7月号に連載された特集記事「ラウンドアップの風評を正す」の中で東京大学名誉教授の唐木英明先生と一般財団法人残留農薬研究所理事長の原田孝則博士が問題の背景と実態について詳しく解説しておられることを紹介するとともに、私自身がCrop Life Asia(アジア農薬工業会)の依頼でアセアン3ケ国のタイ、ベトナム、インドネシアを2015年と2016年に2回訪問して、1回目はそれぞれの国の農薬管理行政官を対象に、2回目はジャーナリストを対象に講演をした時に使ったスライドの一部を添付しました。
2. ネオニコチノイド剤がCCD(Colony Collaps Disorder 蜂群崩壊症候群)の原因で世界中でミツバチがいなくなりつつあるという主張について
私がこの問題についての講演で使ったスライドの一部を添付し、欧州を除いて、日本でも、アメリカ・カナダでも世界でもネオニコチノイド剤が導入されて以来ミツバチの飼養コロニー数は減少していないという実態を示しました。
3. 有機リン剤は毒性が強いという理由でネオニコチノイド剤に置き換える動きがある一方で、欧州ではネオニコチノイド剤の危険性を指摘して規制する動きがあるが、有機リン剤とネオニコチノイド剤の間に人体や環境に対する負荷に有意差があるのかどうかという疑問について
有機リン剤もネオニコチノイド剤も農薬登録で認められている使用基準を遵守して適正に使えば、両方とも環境やヒトの健康に対する影響はアクセプタブル(受け入れ可能)な程度に抑えられます。歴史的には殺虫剤は有機塩素剤(DDTなど)、有機リン剤、カーバメイト剤、ピレスロイド剤、ネオニコチノイド剤、ジアミド剤・・の順に開発されてきましたので、有機リン剤の方が古くてネオニコチノイド剤の方が新しいグループとは言えます。有機リン剤にも毒性の高いもの(パラチオンなど)もありましたが、現在使われているものは毒性の低いもの(フェニトロチオンなど)がほとんどです。ニコチノイド剤も、昔使われた硫酸ニコチンのように毒性の高いものから科学の進歩で現在使われている毒性の低いネオニコチノイド剤が開発されてきました。しかし、ネオニコチノイド剤の中にもそれぞれ特徴があって、イミダクロプリドのようにザリガニのような甲殻類に毒性の高いものもありますし、アセタミプリドとチアクロプリドのようにミツバチに毒性の低いものもありますし、クロチアニジンやジノテフランのように哺乳動物毒性が極端に低いものもあります。有機リン剤とネオニコチノイド剤のどちらがより負荷が大きいということではなく、使用基準を遵守して適正に使えばどちらも安全性に問題はないということです。従って、アセアン3ケ国での私の講演でも少し触れたように(例えばスライドNO.8)、特定の作物に対するPHI(Pre-Harvest Interval 散布をしてもよい収穫前日数)が他の作物より長いということや、特定の作物に対する残留基準値が他の国に比べて高いということは、規制がゆるいということとは全く違います。
4. 医学関係学会誌に化学物質過敏症は化学物質恐怖症で、化学物質への暴露なしで恐怖感がストレスとなって発症する体調不良であることを示す論文が多数発表されているが、体力的に弱っていたり、何らかの病気により抗生物質を服用していたりする場合は薬剤散布による影響が発症することはないのかという心配について
ヒトの健康に及ぼす農薬の影響は、ヒトの年齢や性別や人種や個人差によって当然異なる筈です。個人差の中には遺伝的な感受性の違いや体調の違いも含まれている筈です。そういうことを考慮して、動物実験で求めた最小の無毒性量をさらに安全係数100(種差10倍×個人差10倍)で割って、ADI(一日摂取許容量)を設定し、全ての経路を通しての暴露量がそのADIを超えないように使用基準が設定されています。ただ、抗生物質や何らかの医薬品を服用している場合は、農薬に限らず他の薬剤の影響が高まることもあり得ますので、注意が必要です。複数の農薬のADIレベルでの同時暴露の影響については、私の松枯れ防除実践講座での講演スライド(NO.62)に示したように、20農薬または40農薬を同時に90日間ラットに投与しても影響がなかったという論文が発表されています。
5. 農薬の作業者暴露について共同研究を実施中ということに関連して、農薬が尿中に排出されずに生体内に蓄積して健康に影響を及ぼすことはないのかという疑問について
体内に取り込まれた農薬の代謝経路は化学構造や物理化学性によって影響を受け、呼気、尿、糞への排泄割合が変わってきます。通常は肝臓で第1段階代謝を受けて水溶性が増し、腎臓で第2段階代謝を受けてさらに水溶性が増して尿中に排泄されます。一部は未分解のものが糞中に排泄されたり、炭酸ガスにまで分解されて呼気に排泄されるものもあります。体内に蓄積されるような農薬は登録が認可されません。